◆ A HAPPY NEW YEAR!!いちごオ〜レ

『藤井達郎(ふじい たつろう)』
 19歳、専門1年生。普段は怠けてばかりいてる気分屋。
 ゆかりには頭の上がらない性格。
 身長173cm、体重65kg、髪はやや長めで中肉中背。

『堀川ゆかり(ほりかわ ゆかり)』
 19歳、大学1年生。達郎とは高校の頃からの付き合い。
 何事にも率先して行動して気が強く見えてしまう反面、涙もろく感受性が強い。
 身長158cm、体重46kg、ロングヘアーの似合う女の子。




1998年 大晦日
『以上を持ちまして、紅白歌合戦を終わりまぁ〜す』
テレビからは年末恒例となっている、歌番組が出演者の合唱の中で終わろうとしていた。
達郎は1人こたつで横になりながらそんな光景を時間の過ぎるままに眺めていた。
「はぁ〜、今年も終わっちまったなぁ。」
誰にともなく独り言を言いながら体を起こし年越しそば用に買っておいた
カップ麺にお湯を注ぐ。
「結局、何もない1年だった。」
お湯を入れたカップ麺を片手にこたつに戻るとテレビのリモコンを
片手にいろいろとチャンネルを変え始める。
どの番組も年末の特番や初詣前の寺社の様子などといったどうでもいいような番組ばかりだった。
それでもこの暇な時間をどうにか紛らわそうと達郎は何度も同じ番組を見ては
また別の番組へと変えるのだった。

―ピンポーン―

ふと聞き覚えのある音に一瞬反応しながらもすぐに気のせいだと思って
またチャンネルを変え始める。

―ピンポーン― ―ピンポーン―

なおも鳴り続けるブザーに対してようやくその音が自分の住んでいるアパートの
ブザー音だということに気づき、達郎は食べ頃になったカップ麺を左手に持ちながら
玄関へと走っていった。
走るといってもそこは2DKのアパート。こたつのある居間から玄関までの距離は
そんなに離れてはいない。
「はーい、はい。 いま出ますよっ」
少し投げやり気味に返事をしながらドア鍵をはずし、右手で少しドアを開け放つ。
「やっほ。」
元気な女性の声だった。 赤のダッフルコートを着たロングヘアーの女性は
気さくに挨拶するとそのまま玄関まで入ってきた。
「ちょっと、近くまで来たから。 ね、上がっていいでしょ?」
女性は達郎の返事を待つことなく、黒のロングブーツを脱いで上がってきてしまった。
達郎もそんなことには慣れているのか、特に気にすることもない様子で
またドアにカギを掛ける。
「どうしたんだよ、今日は一体。おまえの方から来るなんて珍しいな。」
カップ麺をかき混ぜながら達郎はコートを掛ける彼女に話しかけた。
「だから言ったじゃない、近くまで来たからって。
 それに、年越しそば まだでしょ。」
女性はコートを掛け終えるとここへ来るときに買ってきたのかコンビニエンスの袋
を達郎の前につきだした。
「今、食べてるところなんだけど・・・・」
「・・・・・・。」
二人の間に訪れる沈黙。
達郎のそばを食べる音だけが響きわたる。
「ったく、そんなことだろうと思って買ってきたんじゃないの。
 ほら、むこうで座って待ってて。今準備するから。」
彼女はそういいながら達郎の食べていたカップ麺を取り上げると
コンビニエンスの袋からいろいろと取り出して年越しそばを作るであろう準備を始めてしまった。
達郎はしょうがなく彼女にいわれるままにこたつへと戻り、またテレビを見始める。

 彼女は「堀川 ゆかり」。
高校3年生の頃からつきあい始めた仲でこうしてたまにお互いの家に上がり込んでは
何気ない話などをして過ごしている。
しかし、こうしてつき合うようになるまでには人並み以上の努力があったからで
聖架(せいか)高校の中でも人気が高かった彼女は私設のファンクラブまであるほどで
玉砕覚悟で誘ったデートがなければ今のこの関係はなかっただろう。
今でも思い出すと自分で自分を誉めたくなる。
 つき合うようになって1年にも満たない仲でまだ”告白”というようなところまでは
いっていない。 要するに彼女から見てみれば僕はただの”気のいいお友達”止まりなのかも
しれない。 今までに何度か告白できそうなチャンスがありながらも自分から言い出せなかったり
彼女にうまく逃げられてしまってとうとう気がつけば年越しにまでなってしまったのだ。

 達郎は先ほどの時と同じように最初は座ってみていたテレビもだんだんと
横になりながらの姿勢で見始めるようになっていた。
 一方、ゆかりのほうはだいぶ準備が整ったのか鍋を置いたガスコンロの横に
そば用のどんぶりを二つ並べてネギなどをまぶし最後の盛りつけに取りかかっていた。
「何か手伝うことでもあるか?」
テレビを見たままの姿勢で声だけで訪ねる達郎。その返事に応えるかのように
ゆかりは両手にそれぞれ盛りつけの終わったどんぶりを持ってこたつのある居間へと
やってきた。
「いま、ちょうど終わったところだから大丈夫だよ。
 はい、これ達郎のぶん。」
「サンキュー」
どんぶりを差し出して達郎の向かい側に座るゆかり。達郎も横になっていた体を起こして
お互いに向き合って座るようなかたちになった。
「なんか悪いな、作ってもらっちゃったりして。」
「いいって。 達郎こそカップ麺ばかりだとそのうちに体壊すぞ。
 ホントいつになってもだらしないんだから。」
ゆかりはキッチン横のカップ麺やらコンビニエンスの弁当の空き容器があふれ出している
ゴミ入れを見ながらため息混じりに言う。
「でも、あれはあれでうまいもんだぜ。」
「ったく、これだから・・・・」
『いよいよ新年まで残り10分となりました。』
テレビからは元気のいい女性のリポーターがにわかに人の集まりだしたどこかの境内から
生中継のアナウンスを入れていた。
「いよいよ新年だね。」
ゆかりは作ってきた年越しそばを口にしながらつぶやくように言う。
「そ、そうだな。」
突拍子もない彼女の言動にどう返していいのかわからず曖昧な返事をしてしまう達郎。
今まででもこんな突然に突拍子もないことを言い出すことはあったが
どこか今日のゆかりはいつもと違う雰囲気だということを達郎は感じていた。
あるいは、あまりに達郎が意識しすぎてそう感じているのかもしれない。
「わたしね、夢だったんだ。」
「・・・急にどうしたんだよ。しおらしくなって。
 ゆかりらしくないぜ。」
達郎は自分の動揺を少しでも抑えようと目の前の年越しそばを
勢いよく口へと運び込む。 一方ゆかりはテレビを眺めながら特に動じた様子もなく
相変わらずつぶやくような口調で話を続ける。
「ね、達郎・・・。
 私のこと どう思う・・・・」
「えっ!?」
彼女の質問に思わず箸を落としてしまう達郎。 
しかしゆかりはそんなことには気にすることもなくただじっとテレビを眺めたまま
達郎の返事を待っているようだった。
しばらくの沈黙。 テレビではいつの間にか年越しのカウントダウンも終わり
アパートの外からはどこかの寺からだろうか除夜の鐘をつく音が聞こえてくる。
「くすっ。あはははは」
突然笑い始める彼女。達郎はすでに混乱状態で困惑したままの顔で
ゆかりを見つめているしかなかった。
「あ、あ・・・あっあのっ」
「くっくっくっく・・・だから言ったでしょ、あたしの夢だったって。」
「だからそれがどんな夢なんだって」
少し巻くしあげるように言う達郎。明らかにその心は動揺していた。
ゆかりは少し考えた後、注意していないと聞き逃しそうなほどの声で
口を開く。
「す・・・好きな人と新年迎えるの・・・」
「!?」
達郎は息が止まるほどだった。まさかのゆかりの方からの告白に
自分の耳を何度も疑っては頭の中でゆかりの声を繰り返していた。
「こうやって好きな人とこたつに入って、テレビ見て・・・くすっ」
そういって達郎を見てほほえむゆかり。それが達郎にはすごくいとおしく見え
今まで逃げていた自分に強い決心をさせた。
 達郎は落とした箸を拾ってきちんとどんぶりの上にそろえると身を乗り出すようにして
彼女に素直な自分の気持ちを告白した。
「オ・・・俺も、堀川のことが・・・・好きなんだ。
 大好きなんだ!」
「・・・・・・・・・・。」
前髪で表情が見えないほど俯くゆかり。
どれほどの時間が経ったのだろうか。そばもなくなり、つゆだけとなったどんぶりから昇る
湯気も弱々しくはじめの頃の勢いを失っていた。
 二人はそんなどんぶりをそれぞれの目にして微動だに動かず重苦しい空気だけが
時間の流れすらもゆっくりさせていた。
「くっくく、あははは・・・・」
「!?」
俯いたまま笑い始める彼女。次第にその笑いはかみ殺していると言うより
ふつうに大笑いするまでになり俯いていた顔を上げて笑うようになった。
「くく・・・さて、ここで問題です。
 わたしは達郎のことを果たして好きなんでしょうか?
 さあ達郎、目をつむってよーく考えなさい」
ゆかりはけろっとした表情で小さく達郎に左手で指さしながら
意地悪な笑みを浮かべていた。
 達郎のほうは完全に困惑しゆかりに言われるままに目をつむって考えることにした。

 今までずっと彼女のことが好きで今日までいろいろとがんばってきたんだけど
もう何がなんだかわからなくなってきた。今までだって何度かいい雰囲気の場面はあったものの
そのすべてで成功した試しはなかった。 今日だって、ありったけの勇気を振り絞って
初めての告白をしたのにこのままいつものようにうまくごまかされそうだ。
一体俺ってゆかりにとって何なんだろう? ゆかりは俺のことを本当にどう思っているんだろう?

「!!!!?」
達郎が考えに頭をフル回転させている中、体を支えるために無意識に後ろに投げ出していた
右手に触れる感触が伝わった。 ゆかりに手だ。
「・・・達郎」
優しく重なるゆかりの手。
ささやくようなゆかりの声に達郎はもはや目を開けることもできずに
ただ緊張に体をこわばらせるだけだった。
「答えは・・・・」
静かに重なり合う二人の唇。はじめはどちらともなくぎこちない口づけだったのが
次第に緊張感もとけてお互いに自然に唇を重ね合う。
実際には1分にも満たなかったそんな時間も二人にはとても長く感じられた。
「ゆかり・・・」
「わ・・・わたしもね達郎のこと好きだよ。
 そうじゃなかったら、わざわざ年越しそばなんて作らないって」
照れ笑いをするゆかりにつられて笑い始める達郎。
「ありがとう・・・達郎」
「ゆかり・・・」
涙目ながらも精一杯の笑顔のゆかり。そんな彼女を引き寄せて
また二人は口づけを交わした。
「ほら、初詣に行くぞ!」
「おまえって、急に態度が変わるな。さっきまでのゆかりは
 どこに行ったんだよ。」
「ふふふふ・・・」
二人は簡単な身支度をするとそのまま近所の寺に初詣へと出かけた。
肌寒い真冬の星空の中、こうして新しい恋が始まった。







(C)Copylight 1999,2000 Strawberry Fizz / Ichigo au lait all rights reserved.
Design featuring C.N.Net.Works web page.
turezure@netpro.ne.jp