ハードとしての確実な家作り:実践編 

17.木製建具工事 その1

 建具は、その動き方から分けると、引き戸と開き戸に大別されます。また、構造上から分けると、板戸、障子、襖と三種類になります。それぞれの場所に引き戸か開き戸の、どちらかを建て込むかは設計の話ですから、ここでは省略します。本論では、建具の構造を中心に話をすすめていきます。

 西洋で建具と言った場合、ふつうは建具を開閉させるための、まわりの枠共での話が多いのです。しかし、造作工事のところでも述べたたように、日本では、建具を走らせる内法(うちのり)つまり鴨居や敷居は、大工の工事領域です。開き戸でも事情は全く同じです。建具屋の仕事は、中に入る建具そのものと、建具の開閉を支える金物の取付けだけです。

 建具そのものと、金物を分けて述べたことから、気づかれたかも知れませんが、建具工事は、二種類の職方に分かれています。つまり、建具を作る職人と、それを吊りこむ職人です。

 建具は、現場からとってきた寸法にもとずいて、建具屋の仕事場で作られます。最近では、かなりの部分が機械による加工となっており、既成品もあります。仕事場では、正確な長方形になるよう、精密な工作がなされています。建具を作るには、細かい神経が要求されるため、几帳面な性格が要求されます。それにたいして、吊りこみ仕事には応用性が求められます。というのは、どんな建物でも多少は狂っていますから、そうした中へ臨機応変に、削りつけて建てこむわけですから。

 
12ミリの部分を、<シマ>と呼ぶ

 建具と言って、代表は障子でしょう。床から鴨居まで、いっぱいに開閉する<掃きだし>障子の場合です。高さは5尺8寸(176センチ)を標準とします。溝の巾は7分(21ミリ)です。そして、溝と溝の中間をシマと呼びますが、ここが4分(12ミリ)で、関東ではこの寸法を標準とします。そこを1寸(30ミリ)の厚さの障子が走ります。すると、障子と障子の間には、1分(3ミリ)のすき間があく勘定になっています。

 1寸の厚さの障子と言いましたが、建具の材料は厚さ1寸1分(33ミリ)で流通しています。それを削って仕上げると1寸になるわけです。実に合理的な物流の体系が、1寸厚の障子を支えていると言えます。ちなみに流通している建具材の規格寸法は、33、36(ラワンは収縮が大きいので、ラワンに限り34、37)40、45、50、60です。これ等は建具のデザイン上、知っておくと良い数字です。

 3ミリの間隔と言いましたが、高さ176センチの3ミリです。障子は引き違いが多く、2枚で一組ですから、片方だけ考えれば1.5ミリです。この数字の意味するところは、障子は1.5ミリ狂ってはいけない。これ以上狂うと、障子と障子がこすれて、動かなくなるということです。実に微妙なものだと思われるでしょう。こうした狂いを防止するために、建具用の材料は充分乾燥した、素性の良いものを使用します。それが、前述の定尺寸法の建具材となって流通しています。こうした配慮にもとづいて制作しても、建具は狂いやすいものです。ですから、新築後半年から一年ほど経ったら、再調整が必要かも知れません。

 1寸厚という標準寸法は、俗に<はき出し>と呼ばれる高さ176センチの障子には、ちょうど良いのですが、小さな障子ではゴツすぎます。高さ90センチから120センチくらいの障子では、21ミリの溝、9ミリのシマ、そこを8分厚(24ミリ)の厚さの障子を走らせることになります。ところがこれだと、建具と建具の間隔が、6ミリもあいてしまいます。そこで、閉じた時に重なる框の紙のはってない方を、27ミリの厚さにします。すると、標準寸法と同じになり、上手に納まるわけです。

 
左の表が仕様、真ん中下(A)が姿図、上(B)が縦断面、右(C)が横断面





















 ここで、障子の部分の名称を掲げておきます。横材は上から順に上桟、中桟、下桟です。中桟がなかったり、二本あったりもします。縦桟は框(かまち)と呼んでいますが、左右の別称はありません。そして、中へ入る細い棒は、細桟ではなく、縦でも横でも組子です。桟や框に組子がついた場合は、付子と呼びます。そして、下の方に板を入れると腰板となります。柱にあたる矢印の部分は、オオデと呼びます。左図が匠研究室の標準的な建具図です。Aが姿図(裏表で形が異なる時は、両面の図が描かれる)、Bがそれを横に切った断面図、Cが縦に切った断面図です。匠研究室では、建具の一枚一枚にこの図面を描いています。

 障子の上桟は、台形断面(建具屋は長押状という)をしていることがあります。もしこれが、図のCのように長方形断面をしていると、鴨居に入れるためには、框だけではなく、上桟も図のように加工しなければなりません。ところが、台形面であると、框だけ切り欠けば、鴨居に入れることができます。その上、障子と鴨居が、框の二点だけ接しているため、軽く動かすことができます。本来は、溝巾に納まるように細い長方形断面にすれば、問題はなかったのですが、それでは付け子や上桟の面などの関係で、7分(21ミリ)の溝におさまらず、苦肉の策で台形断面にしたのだとは、粕谷さんという建具屋さんから教えていただきました。

 框や中桟、下桟は、長方形断面です。その寸法はそれぞれ少しずつ違いますから、1寸1分(33ミリ)の厚さの材料から、切り出します。流通している建具材を割りさけば、見付き方向(部屋の方から見える方向)には、平行な柾目が表れてきます。見付けを柾目にとることは、建具の木取りの基本で、これによって狂いにくい建具ができます。

 次に組子です。障子の命は、組子です。組子をどう組むか、これが障子の見せどころです。当然、組子の寸法にも神経をはらいます。特に単純な組子であればあるほど、組子の寸法、組子の間隔、組子の交差のさせ方等々といったバランスが難しくなってきます。前述の如くに1寸1分(33ミリ)の建具材、3つに割って9ミリ、これを削って7.5ミリ、これが通常の組子の寸法決めです。こうすると材料取りの上で無駄がないので、黙っていると建具屋はこの寸法に作ってきます。

 組子の寸法は大変微妙で、細ければ繊細、太ければ重厚、間隔が狭いと凝縮感が強くなります。部屋の雰囲気に合っていなければならないわけですから、決して建具屋まかせには、できないことに気づかれるでしょう。確かに、建具屋は建具づくりの専門職ですが、大切なのは部屋全体であり、建物全体です。全体を指示しているのは設計者です。作ってくれる建具屋に感謝しつつも、いろいろうるさく言う匠研究室であります。

 
水腰荒組障子

 障子の例をあげながら、いくつか見ていきましょう。左図は、今日もっとも一般的な障子で、水腰荒組障子です。一枚15、000円くらいでしょうか。(建具は材料によって値段が違う。ここではスプルスで考えているが、材料については、後述)荒組ですから、組子は太くした方が納まりも良く、広幅の紙が使えれば、間隔も広くできます。框も桟もいくらか太めに作っても、大丈夫です。しかし材料の交差部が少ないため、やや形がくずれ易いきらいはあります。

 猫間障子は、障子の一部が開閉するもので、開いた部分には、透明ガラスを入れるのが一般的です。上下にすり上げる形式と、左右にあける形式があります。開閉する小さな障子を子障子と呼び、それを横へ引き分け、または片引きにする障子を、猫間障子といいます。また、上にすりあげる形式は、どうしたわけか大阪猫間と呼ばれています。

 大坂格子障子は、最近では少なくなってきた障子です。片側が格子、もう1方が紙張りというものです。以前はよく商店の店舗部分と住居部分の境に使用されていました。この紙はり部分はとりはずしができ、夏になると格子戸になります。これによって暗い室内は、外からは見通されず、内からは外が見えるという具合の良い障子です。複雑な作りなので、材料も食い手間も食う障子で、どうしても高価になってしまいます。

 ふつう障子は、表側に組子を見せ、裏側に紙をはります。しかし、これでは裏表ができてしまい、裏に見せたくない場合は、障子が使えない仕儀になってしまいます。両面とも表に見せたい時、上手い障子があります。それは両面組子障子です。一寸の厚さの中へ組子を2組も入れ、しかもその中間に紙をはるのですから、大変な芸当です。これでどちらから見ても、表裏がなくなりました。

 しかし、本当は二組の間に、紙をはるなんて不可能です。そこで、まず半分の厚さの組子を組み込んで、障子をつくります。そして紙をはってから、表の組子と同じ姿の組子を裏からはめ込むわけです。ですから、紙は片方の組子にしか、のり付けされてはいません。それでも、上手く作られた両面組子障子は、表裏を感じさせず、役目をはたしてくれます。

 間取りやデザインのうえで、裏表をつけられなくなってしまうのは、まれにありますが、本来は避けるべきでしょう。それでなくても狂いやすい建具を二つに割るのですから、あまり感心した設計ではありません。両面組子を作る建具屋の腕は良いかも知れませんが、それを作らせた設計者の腕は、どんなものでしょうか。丈夫な建具を作れる間取りを、設計するほうが良いかも知れません。これは、時として両面組子の障子を作らせるに至る、匠研究室の自戒の言葉でもあります。

 障子は組子が命だと言いましたが、本当に組子の作り方次第で、ずいぶんと印象が変わります。縦組子と横組子の寸法を変えると、太くなった方の線が強調されます。そして、縦を太くすると縦、横なら横の方向性がでてきます。それを極端にすると、横組子だけになります。室内の他の部分が、横を強調したデザインだったりした時は、上手くなじみ面白い効果がでます。しかし、縦組子をなくしてしまうと、横組子が途中でたわんでしまう恐れがあります。この障子は組子がきれいに水平に並ぶのが見せどころなのですから、それでは困ります。そこで、まん中に一本、縦組子を仮どめしておきます。これは紙はり用の定規です。紙をはるまで、組子のあばれをこれで押さえておくわけです。紙をはってしまえば、あとは紙が組子を押さえてくれますから、横組子だけでも大丈夫です。

 横組子だけだとか、縦組子だけなどという障子は、見た目には良いかも知れませんが、実用性という意味では疑問が残るところです。というのは、新築時には障子紙も本職がはりますから、前述のような配慮をします。ところが何年かたって、紙の貼り替えの場合はそうはいきません。紙はり定規は、もうなくなっているかも知れません。すると、長い組子はブラブラして、素人には貼りにくいでしょう。うまく貼れてない障子は、みっともない物です。ですからスカッと粋なといっても、横組子だけなんていう障子は、さけた方が賢明です。そうは言っても、設計者というのは罪なもの、どうしても横組のデザインが欲しいとなれば、そうした障子も作ってしまうのもまた事実です。

 組子の断面を長方形から、大きく面を取った台形のような形にすることもできます。面とり組子と呼ぶこれは、縦か横だけどちらか一方だけなら、それほど難しくありません。面とり組子の障子は柔らかい感じがして、とても上品な良いもので、何とはない深みと味があります。しかし、縦も横も面とりにしてしまうと、たいへん難しい工作になり、とたんに高価になってしまいます。というのは、組子の交差する部分を想像してもらえれば、その困難さが理解してもらえると思います。交差部の全てに、複雑な工作をしなければならないわけです。ですから、荒組子障子の3〜4倍くらいの手間がかかるはずで、高価になるのも、仕方のないところではあります。

 今まで述べてきた組子は、直角に交差していました。どちらか一方に、傾斜を付ける仕事もあります。ふつうは、横組子を下向きに傾斜を付けることが多く、こうすれば埃が乗らないだろうというので、チリ落とし障子と呼んでいます。チリ落としにした時は、同じ寸法の組子よりも太く見え、ややゴツくなるので、やぼったくならないようなデザイン上の配慮が必要になります。

 
変形組子の障子各種、組子を曲げることもできる

 組子は縦横二本が直行する前提で、話をすすめてきました。ところが、左図のAのように三本の組子を交差させることもできるし、さらには曲線の組子を作ることも可能です。本当に自由にデザインできます。匠研究室では、こんな障子もずい分と作りました。もちろん、こうした変形の障子は高価です。しかも、組子が直行しないと、長い間には障子の形がくずれ易く、製作には高度な技術が必要なことはいうまでもありません。その上、部屋全体の雰囲気を考えてデザインしないと、変形障子は、障子だけが部屋からういたものになりがちです。

 障子の仲間として、是非ふれておきたいものに、葦戸(よしど。はぎど、ともいう)があります。障子は本来冬のものです。障子では、風も通らないし、視線がぬけなくて暑くるしい。そこで、夏になると、障子をはずして、そのかわりに葦戸なるものを建てこみました。葦戸は、障子とよく似た作りをしています。紙のかわりに、葦のすだれを入れてあるのが違うところです。

 葦戸は現代の網戸と異なって、蚊を防ぐ役目は、はたしません。何のためにといっても、極論すれば、ただ目の涼しさのためだけに、葦戸を建てこんだのでした。何という贅沢。機能としては全く無用の建具を、わざわざ建て込むなんて、無駄もいいところでしょう。しかし、その葦戸が涼味を感じさせてくれるのですから、不思議なものです。

 両面組子の障子のように、葦戸の中心にすだれを入れて、組子で押さえたのが葦戸です。すだれが横ですから、組子は縦になります。(逆も可能)横組子だけの障子と同じ理屈で、組子がどこにも止めていなければ、狂ってしまうので、中桟か中板を入れておくデザインが多かったようです。これも、以前はすだれを誂えて、網目をそろえさせたり、葦の色に注文をつけたり、細かい芸を見せたものでした。

 今日では、葦のすだれを誂えるのは、もう難しくなりました。そこで市販のすだれを使って、葦戸を作ることをすすめます。既製のすだれでも、充分に涼味を感じさせてくれて、葦戸はよいものです。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい