ハードとしての確実な家作り:実践編 

18.建具工事 その2 19.建具工事 その3

18.建具工事 その2

 障子と並んで、建具の代表といえば、扉です。扉は、昔は図のようにまわりに枠をまわした、框戸(かまちど)と呼ばれるものでした。ところが、框という名のとうり、大きな断面の部材を使用するため、高価なことと、乾燥材を使用しないと、狂い易いので、だんだんと見られなくなりました。

 それに対して、今日では板戸といえば、ラワン合板などで杉の細棒を芯材としてサンドイッチにした、フラッシュ戸をさすようになりました。フラッシュ戸は表面に使用する板をかえれば、全く表情が変わり、安価なこともあって、今日では板戸といえばこれを指すくらいに、全盛となっています。

 
縦横入りの框戸

 まず框戸です。框戸は引き戸に使用できない、というわけではありません。が、引き戸は、障子で説明していますから、框戸は開き戸として考えていきます。框戸の、基本的な構造は、左図のような具合です。つまり、障子の上桟、下桟それに框が太くなったものです。それに、中桟が入ったり、縦桟が入ったりという具合にして、複雑な表情に変わっていきます。

 紙のかわりに、板が戸の中心に入ります。障子との違いと言えば、本当のところはこれだけです。ところが、開き戸として使用される框戸は、その概念が西洋で発生したものであるために、決定的な部分が日本の建具と違っています。それは何と言っても、頑丈であると言うことです。

 日本の建具屋が作る框戸は、1寸1分の建具材から作られることが多いため、障子と同じ1寸(30ミリ)の厚さです。ところが、引戸と異なって錠前をつけるため、その部分は極端に板厚がうすくなって、頑丈であるべき框戸の役目をはたしません。框戸と呼ぶことができる戸は、最低でも40ミリ、できれば50ミリの厚さは欲しいところです。

 框戸の話をすすめる前に、錠前について考えておきましょう。様々な形の鍵がありますが、たいてい左図のような形をしています。面付錠といってこうした機構が、戸の表面に木ネジ止めされる形もありますが、多くは框を掘りこんでおさめます。左図の下がその関係を示しているのですが、これでも判るように錠前の厚さが20ミリはありますから、それを框にさしこむと、框は両側にわずか5ミリずつしか残らなくなってしまいます。板の厚さが5ミリしかないのでは、人間が体当たりすれば、苦もなく壊れます。

 シリンダー錠とも呼ばれるこの錠前は、内部機構が改良に改良を重ねて、今日にいたり、精確さ、簡単さ等、他の錠前の追従を許しません。ところが、いくら錠前自体が精巧であっても、戸とのとりつけ部分が弱ければなにもなりません。戸の厚さが欲しいわけです。

 錠前は、工業製品ですからメーカーが作ります。ホリ、オーシマ、ミワ、ショウワ、ベスト、ゴール、アルファ等といったところが有名です。この順番に安価になる傾向があります。錠前をはじめとして、戸につく金物類は、残念ながら外国製に追いつけません。いや性能だけなら、多分もう日本製の方が上でしょう。しかし、金属の質感、把手のデザイン等といった、計量できない部分になると、日本製はまだまだ貧弱です。そうした中でもホリというメーカーは、独特な錠前観を持ち、性能、デザイン共に優れた物を製作しています。また、オーシマはモダンデザインで売っており、なかなか良いものがあります。しかし、両者とも高価で、なかなか手が出ないのも正直なところです。ホリの錠前は、3〜4万円はざらです。

 玄関、勝手口、各部屋の戸などと錠前をひろうと、一軒の家ですぐ10ヶ所ぐらいはありますから、錠前だけでも30万円などという金額になってしまいます。戸につく金物は、錠前だけではありませんから、蝶番なども同じグレードにそろえると、建具金物だけで相当の金額になってしまいます。

 後で述べるフラッシュ戸と異なり、框戸はドッシリとしていたいものですから、是非とも良質の金物を使用したいところです。把手を握ったとき、しっくりとなじむ錠前は、戸全体をぐっと格調高く感じさせてくれます。といっても、錠前に良いものを使用すると、戸もガッチリとしたものにしたくなり、戸をそうすると、まわりの壁も厚くドッシリということになり、西洋の建築にどんどん近くなっていきます。困った話にすすみそうです。

 框の厚さと同時に、框の巾についてもふれておきます。巾は、錠前がおさまる深さ以上ないと具合が悪いわけで、使う錠前によって必然的に框の巾が決まってきます。必要な深さをバックセットと呼ぶ。時々、トイレの入り口など、開口巾の狭い戸の時は、框を狭くしたい誘惑におそわれ、つい錠前のことを忘れてデザインしてしまいます。そして、現場で、錠前がおさまらない事態に立ち至り、己の浅はかさに恥入ることしばしばです。

 匠研究室では、開口巾の10の1ぐらいの框が美しいと思っていますから、60センチの戸だと6センチの框となるわけです。ところが6センチの框におさまるシリンダー錠はないのです。こうした寸法のバランスは、家全体から導かれていますから、変えにくいのです。そこで、狭い戸には押し板だけにしてみたり、悪戦苦闘が始まります。

 金物との組み合わせが処理できると、框や上桟下桟の断面をどう作るかを考えなければなりません。アッサリとした部屋なら、戸もアッサリと仕上げます。戸の印象は、框の面の形が、大きく左右します。付け面にすることもできます。こうした面は、それぞれに特別の雰囲気を持っており、部屋の雰囲気に調和するよう、戸をデザインします。

 枠に取り囲まれている中の板を、鏡板と呼びます。最近では、巾広の板が少なくて、高価になってしまいましたから、表面に薄板を張り付けたツキ板を、使用することが多くなりました。ツキ板ですと、表面に彫刻をほどこしたりすることはできませんが、本物の板を使用すれば、表面に凹凸をつけて変化を楽しむことができます。また、板のかわりにガラスを入れると、ガラス入りの框戸となります。框戸は、木地のままで仕上げることは少なく、塗装仕上げとすることが多いようです。

 
框ほぞの内部

 框とは名前のとおり、太い材が四辺を取り囲むため、框と桟をつなぐことが必要です。これは、障子でもまったく同様、ふつうは左図のように柄を作って納めるのですが、建具屋の仕事は、大工とは少し異なります。同じ木を相手にする細工ですが、細工に対する考え方が少し異なります。つまり、大工は立体としての家を相手にしますから、様々な方向からの複雑な力に対処しなければなりません。その中でも、特に上からの力に、最も意を用いて細工をします。その上、家はいつも微妙に動いています。ですから、大工の細工は、やや大雑把で、全体に力を上手く分散するように作っていきます。

 建具は、平面的で力のかかる方向が一定で、しかも、一点に集中的に力がかかります。つまり、引き手や取っ手という点に集中的に力がかかり、しかも、そのかけられた力で建具自身が動きます。一度の動きは少なくても、何回もくり返される建具の運動は、徐々に建具を変形させる大きな力となってしまいます。建具自身が動かなければならない属性は、建具の細工が大変精度の高いものであることを要求しています。

 建具とは、つまるところ、細い棒を組み合わせただけのものですから、材と材との接合部で構造を維持しなければなりません。この接合部がゆるむと、建具は形くずれをおこすことになります。そこで建具屋は昔からこの部分に、精度を確保するために神経を使ってきました。建具は、完成時に美しくなければいけませんが、作られた時の姿のままに保つよう建具を製作する技術は、本物が必要です。

 
コラム−15:丈夫な建具を作る工夫
 工夫その1−穴の方を少し中高に作って、入るに従ってホゾがしまるように細工をする。その2−貫通させた穴の反対側からくさびを入れる。その3−ホゾを二枚にする等々。
 決定的な工夫は、建具屋の仕口はノリをつけて組むことです。大工のホゾは貫通させるのを原則としていますが、建具屋のホゾは反対側まで打ちぬきません。貫通させてしまうと、ノリを押し出してしまいますが、打ち込みホゾだと、ホゾ穴の底部にノリが残り、接着力が増すという効果があります。つまり、大工のホゾは動くが、建具屋のホゾはノリづけされて動かない、同じ木工作でも、仕事に対する考え方がまったく違うわけです。 

 最近の板戸は、框戸ではなく、フラッシュ戸です。ラワンや米杉などを細く割りさいたものを芯にして、その両側に合板などをノリ付けしたフラッシュ戸は表面が平らです。框戸にくらべると、フラッシュ戸は、陰影に欠けはしますが、軽快な感じでもあります。フラッシュ戸は、引き戸にも開き戸にも使用できますが、とくに開き戸にした場合、框戸のように錠前のバックセットを心配する必要がなく、自由にデザインできます。

 フラッシュ戸は、二つの使用方法があります。まず、板戸のままで仕上がりとする場合です。それと表面に襖紙をはり枠をのりつけして、中身は板戸でありながら、襖のようにみせる場合です。後者は、戸襖と呼んでいますが、本物の襖が高価になり、また襖の何たるかを理解しない建築主がふえたため、戸襖の使用はふえています。

 
フラッシュ戸のオオテの納まり

 フラッシュ戸の作り方には、左図のようにABCとあり、値段も上中下となります。一般の住宅で使用されているのは、Bです。この場合、鏡板の両端にb部分が見えています。芯材の一部が、はみだしたような形になっています。この部分は、Cのように作ったフラッシュ戸を削って、柱の建て入りになじませ、そのあとでbを貼るわけです。通常6〜8ミリ程度に作られています。Aはフラッシュ戸といいながら、手間のかかる仕事で、bの調整代がないため、一度仮ばめをして柱となじみをとります。そして、テーパー加工をしたフタをノリづけします。このフラッシュ戸は、スッキリ、シャープな感じになります。Cは、建て売り住宅やアパートなどで使われるものです。

 フラッシュ戸の作りは、いたって簡単です。芯材の両面にベニヤをのせて、プレス機にのせるだけです。仕事は簡単ですが、これを無事におさめておくのは、なかなか難しいことです。両面ともに同じ材をはる、この場合はほとんど問題はありません。表面材にどんなに高価なものをはろうと、両方の性質が同じため、両方が同じ強さで引っぱりあって、狂うことはまれです。和室に使用するなら、表面には桧や杉のツキ板を使用することが多く、また洋間だとタモやシナ、チークを使用することが多いようです。

 問題は、両面に違う材料をはる場合です。たとえば、廊下から室内に入る境に立つ戸を考えてみると、廊下に面した戸の仕上げは、廊下の雰囲気に合わせます。ところが、室内はいつも廊下の雰囲気と、同じに仕上げるとは限りません。室内を廊下と違う雰囲気にした場合は、戸もそれにつれて、室内側は廊下と違う感じになっていきます。壁は出入口で切れていますから、異なった仕上げにするのは簡単です。しかし、戸は一枚の裏表ですから、両面の仕上げ材を変えるという形で、対処せざるを得ません。また、押入の戸とする時も同様です。室内側は、いつも見えるのだから、部屋と同程度の仕上げにしなければおかしい。しかし、押入の内側は、誰にも見えないのだから、別に上等な仕上げにする必要もない。すると、ここでも両面に違う材を使うことになります。

 両側の材質が違うということは、伸縮率が異なるということです。これは、具合が悪いわけです。なぜなら、縮みが大きい方が、反対側を引っぱって、戸を弓なり(=正確には舟底型)に反らせてしまうわけです。平らなはずの建具がそることは、建てつけが悪くなる、錠前がおりなくなる、戸袋に引き込めなくなる。一つとして良いことはありません。

 これを根本的に防ぐのは、設計段階でしかできません。とにかく、戸の両側を同じ雰囲気にして、両面を同じ材の建具を作ることです。それでも反る、ということもあります。冷暖房を使っていると、戸の両側の温・湿度差がひどくなり、同じ材を使用していても、戸は狂ってしまいます。フラッシュ戸の構造が、表面材におっているため、この限界から脱けだすことは困難です。芯材にノコギリ目を入れて、ノリをその間にはさんで、フラッシュ戸を作るという手もありはしますが、構造が簡単なだけに工夫するのが難しい戸です。フラッシュ戸は多少狂うものだと思って使用すべきなのかもしれません。

 今まで述べてきたフラッシュ戸は、表面がペタッとして何も凹凸がありませんでした。しかし、それではさびしいので、何か飾りが欲しい。また、トイレの戸などに使用するときは、使用中が判るように小窓をつけたいこともあります。そこで額入りフラッシュといって、戸の一部を切り欠いて窓をつけることがあります。

 フラッシュ戸は、今や襖の代わりに用いられていると述べました。蹴飛ばしてもやぶれない襖として、一部の現代人には歓迎されています。戸襖というこれは、通常のフラッシュ戸と全く同じように作りますが、表面はラワン合板のままで、建具屋の手をはなれます。現場にたてこまれた戸襖は、経師屋(きょうじや)によって襖紙と縁をはって仕上げられます。趣に欠けて、一見して代用襖とわかりますが、何と言っても丈夫ではあります。戸襖の場合、必ず両面に襖紙をはります。片側にしかはらないと、ノリが乾いて紙が縮んだ時、戸を引っぱって、弓のようにそらせてしまいます。両側に紙をはってやると、互いに引っぱりあって、戸はまっすぐに立っています。

 建具材の決め方は、部屋に使用した材と同じもの、これが原則でした。和室の柱が、桧なら障子も桧、杉なら障子も杉です。そして、もっと言えば、木曾桧を使用したら建具も木曾桧という具合、まったくの共材が理想です。つまり、同じ産地でとれた材の柱むきのものを柱に、建具むきのものを建具に配材すると、色や質感がそろって、調和がとれるわけです。洋間についても、事情は全く同じでした。ところが、理由は後述しますが、建具材にできるものは限られているため、今日、これをやるには非常識的な予算が必要になります。

 木なら何でも建具に使用できるかというと、そうではありません。木質の素直な部分だけが、建具となります。建具材は、細く長いものが多いので、どうしても狂いやすく、狂えば建具の性能はおちてしまいまいます。つまり、狂いにくい材、素直な材だけが建具材になり得るわけで、狂いにくい材とは、総じて大木、老木です。一般に樹齢40〜50年くらいでは柱材とはなりますが、この程度の若木は、木の内部に成長のエネルギーが内在し、細くすると狂ってしまいます。100〜150年たった大木が、建具材に適しています。この原則は、杉・桧どんな材にもあてはまり、それゆえに、同じ材種であっても建具材の値段は、建具材にくらべて高価になってしまいます。

 今日では、桧の柱に杉の建具というのもありますし、その逆も時々見かけます。もう、材種をそろえることは、それほどこだわらなくても良いと思います。また、こだわりたくとも、桧や杉の内地材は、高価になってしまいました。米ツガなどの外材が、建築材として使用されているのと同様、スプルスやラワンも建具材に使用されています。ここでも外来材の方が安価なため、スプルスや米杉の建具の方が安価な建具となることは、自然のなりゆきです。匠研究室では、材質にこだわるのではなく、建具のデザインを愛でて頂きたいと希望します。建具のデザインこそ、設計者と建具屋が意を用いた部分であり、室内の雰囲気作りに、もっとも貢献している部分だからです。

 和室でも、桧の柱なら白っぽいスプルスの建具でも、違和感はありません。ましてや、洋間ならたいてい塗装して、材の肌を見せませんから、どんな材でも大丈夫でしょう。昔どおりの本格的な用材をしたら、それこそ天文学的な金額になって、不可能でもあります。ですから、億ションと呼ばれる高額住宅といえども、仕上げの程度は本格派からはほど遠く、建て売り住宅の障子とほとんど変わらないのが事実です。そして、その億ションに入居する人も、もはや障子の材種など気にもとめません。

 西洋風建築でも事情は同じです。重厚なヨーロッパ仕上げだと、チークなどを油ぶきした建具も使用していますが、もはやこうした本格的な仕上げは、今日の日本人にはかたくるしすぎて、歓迎されないという事情もあります。ただし、扉の仕上げは、きれいに塗装したりして、高価そうにしないとクレームになります。

 建具一本の値段は、材料プラス手間プラスもうけで決定され、材料だけによるわけではありませんが、高額材は手間もかけたデザインになることが多く、必然的に高価になります。具体的な金額は、匠研究室の設計例を見て頂くとして、大まかな分類をしておきます。高額材は、欅、チーク、木曾桧、秋田杉などです。これから順に、桧、杉、ヒバ、ピーラー、スプルス 米杉、ラワン、米ツガと安くなっていきます。平凡な結論ではありますが、建具材も適材適所の用材が、最良ということではありましょう。


19.建具工事 その3

 これから述べる襖は、建具工事として扱うのが、適当なのかどうか疑問があります。形こそ障子と似てはいても、襖は建具屋によって作られるわけではなく、経師屋が作ります。ですから、襖は建具とは呼ばないのかも知れません。しかし、障子と同じように使用されていますので、ここでは、建具工事の一部として扱います。

 障子にしろ板戸にしろ、これ等は建具屋だけによって作られてきました。紙をはったり、ガラスを入れたりといった仕事が、その後にあるとしても、建具屋の手をはなれたときは、建具の形になっていました。ところが、襖はいささか事情が異なります。つまり、枠は塗師、芯になる骨は骨屋という具合に、それぞれ別の職人が作ります。

 経師屋の指示にしたがって製作されたものが、経師屋のところに集まってきて組み合わされます。経師屋の最大の仕事といえば、紙をはることです。確かに、木、紙、塗りと全く別種の仕事ですから、違う職人がやった方が上手くできるのは当然です。というわけで、襖を作るのは経師屋を頭とする分業体制です。

 襖は、戸襖と異なり非常に軽く作られています。その秘密は、中身つまり芯の作り方にあります。襖の芯は、障子の組子のような形になっています。障子は組子がそのまま見えるため、美しく組んでありますが、襖の場合は、単なる心材であって、それは隠れてしまうため、組子の作り方は少々雑ではあります。

 
襖の内部構造
襖の紙と縁の関係

 襖の芯にもピンキリがあり、キリでは細い5分角(15ミリ)材だけで作られていますが、ピンの方になると、力骨や力板が入って、グンと強度が上がってきます。この組子の上に、何枚もの紙をはって、襖はできています。まず、一番最初にはるのは骨縛り(ほねしばり)で、これによって骨のあばれをおさえます。順に骨縛りベタ、蓑張り(みのばり、3〜5重)、蓑押え、下袋、上袋とはります。このあたりも普及品では、蓑張りの枚数や上袋がはぶかれたりします。

 何重にも重ねて紙をはられることが、襖の襖たるゆえんで、しかも、そのはり方に特長があります。蓑ばり、袋ばりともに全面にノリづけするのではありません。そんなふうにしたら、ただの厚紙になってしまいます。袋ばりとは、紙の四縁だけにノリをつけるはり方で、内は浮いています。この浮いているのがミソで、薄い空気層を何枚も間にはさんでいることになり、遮音性や断熱性など、すべてこの構造におっています。安物の襖が多いので、軽視されていますが、しっかりと作られた襖の間仕切性能は、あなどり難いものがあります。また、強度的にも丈夫で、しっかりと作られた襖は、蹴とばしたぐらいではやぶけません。

 上袋が、はり上がった芯のまわりには、縁がつきます。上仕事になると、縁は仮ばめをして、一度現場に建てこんでみます。そして、なじみを調整してから、再度バラして塗りにだします。縁が木地のままという仕上げもありますが、塗るとすれば本式には漆になります。通常は、黒もしくはうるみ色の蝋色(ろいろ)仕上げか、つや消しです。最近では、漆にかわってカシューやポリウレタンが使用されることが多いようです。

 芯と縁の結び方にもいろいろありますが、大別すると次の二つです。一つは平縁(左図の上)といって、芯と縁が同じ厚さの納まり、もう一つは芯よりも縁を厚くする印ろう縁(左図の下)です。前者はやわらかい仕上げとなり、後者は重圧な仕上げとなります。

 平縁は、厚さ20ミリを標準とします。溝は21ミリでついてあるので、一本引きの場合はそのままおさまります。ところが、二本の引き違いにすると、襖と襖の間が9ミリもあいて、閉じてもあわせ目から、向こうが見えてしまいます。障子の場合は、框の厚さが30ミリあり、シャクリ下げという形で溝に入るのは21ミリだから、何でもなかったのですが、襖ではそうはいきません。

 そこで、めし合わせの部分、つまり、閉じた時にかさなる縁を、他の三方より厚くします。こうして、縁と縁のすき間をせまくします。また、縁の見付き巾は通常18ミリですが、巾の調整はもちろんできます。巾広になれば重厚に、細くなれば繊細になるというのは、ここでも同じです。細くしていって、とうとう縁がなくなってしまうと、太鼓(たいこ)張りという襖になってしまいます。これは茶室の給士口などに使用します。

 障子が組子を見せるものだったのに対して、襖は紙を見せるものです。ですから、縁は目立たぬように、あまり太くしないのを上仕事としています。太い縁は、田舎仕事といって、あかぬけないものとされています。ですから一般住宅では平縁が使用されます。ところが、寺院や書院造りといった格調を重んずる建物では、縁と紙が同一面の平縁では、陰影に乏しく、室内の雰囲気にあいません。そういう場合には、印ロウ縁を使用しますが、すると平面的だった襖が立体的になり、重厚感がでます。

 障子にも襖にも、引手がつきます。障子の場合は、30ミリという細い框につきますから、必然的に縦長の引手になってしまい、せいぜい材質に変化をつける程度です。角をまるくした隅丸と角型、また下の方を丸くしたチリ落としといった程度の違いで、やはり細長い形であることには変わりありません。

 それにたいして、襖の引手には、実にいろいろな種類があります。まず、襖の大きさに従って、引き手も大きくなったり小さくなったりします。いちばん小さいのは床の間の脇に使用する小、直径30ミリくらいです。次に中、これは高さ90センチ程度の襖に使用するもので45ミリくらいです。最も多く見るのは、通常の出入口の襖に使用する60ミリの大です。その上もあり、巾広の襖に使用する直径75ミリの大々となります。そして、当然のことながら、同じデザインで小、中、大、大々と四通りの大きさがそろっており、同じ室内に面している襖は、大小の違いがあれ、全て同じデザインで統一できるようになっています。

 丸、角、小判型、長方形等々、かわったところでは、月の形や鳥の形などもあります。とりわけ、金属製の引手には、飾金物とも呼ぶほどの精巧なものも多く、引手1ヶが2万円、3万円というのも珍しくありません。まれに陶製の引手もあり、自由な造形に遊ぶことのできる部分です。引手は小物ですから、器用な人なら充分に手作り可能です。自分で作った引き手を、経師屋にわたせば、襖にとりつけてくれます。

 引手金物を使用しない襖もあります。太鼓張りの場合は、引手金物ではなく、彫り込みにして紙張りで仕上げます。これは、どうしても引手の部分が手アカで汚れますから、別の紙で増し張りしておいた方が、良いかも知れません。

 問題の襖紙です。柄物と、無地に大別できます。ふつうは柄物のほうが多く使用されます。経師屋に見本帳をたのむと、松の木だの、虎の絵といった襖紙がとどきます。しかし、こんな紙をはったら、室内で襖の絵ばかり目立ちます。ここでも、職人の自己主張が強くなってきているようで、経師屋は襖を立派にすることだけを、目ざしているとしか思えません。残念なことに、経師屋のセンス(技術ではありません)は最近とみに、低下しているように感じられて仕方ありません。経師屋が推薦する襖紙では、どうも長屋風とか成金風に仕上がってしまうと思っているのは、匠研究室だけでしょうか。

 かつては葛布(くずふ)などという上品な襖紙も使用されていました。手ずきの和紙は高価になってしまいました。今日、一般の襖は15、000〜20、000円/枚といったところでしょうから、紙はその10分の1つまり1、000〜1、500円程度です。この金額ではなかなか上物は使用できません。せいぜい模造紙に毛がはえた程度で、手ずきのものは無理です。

 安物の紙は紙質が悪い分だけ、立派な絵を印刷してあるものが多く、ますます品がなくなっていきます。襖に予算がさけないなら、ぜひとも無地のものにすべきです。無地物なら、この金額でも、何とか入手できます。銀領と銀河という見本帳は、種類も多く、値段もこなれた紙がたくさん収められています。

 ところで、ステントグラスやシャンデリア・システムキッチンに、何百万円もだそうという人はたくさんいます。ところが、襖紙に1万円だそうという人が少ないのは、どうしたことなのでしょうか、一軒で襖が10枚あっても、裏表で20万円です。外来のものや、目新しい設備には、潤沢な予算がまわり、何でもない襖紙の予算をけずるという神経は、ちょっと理解に苦しみます。

 手ずきの和紙にお金を投ずる(以前はそれがふつうだったのです)と間違いなく、おちついた上品な室内ができる、と匠研究室は保証します。伝統技術がすたれた、職人の腕がおちたとなげくより、日常身辺に手ずきの紙をつかうことの方が、それを防ぐのにずっと役立ちます。イタリア製のタイルと同様に、日本の和紙もすばらしい伝統技術に支えられているのです。

 いずれにせよ、1万円もだせば、紙はよりどり見どりです。1万円で最高級のものが手に入るとすれば、安いものではありませんか。代表的な襖紙である色鳥の子(いろとりのこ)に、一枚一枚木版で紋様を描いたような、手間のかかった和紙だって使えます。こうすれば、桂離宮の襖紙とおなじです。

 バカラ、ムラノ、マイセンなどに比べれば、日本の和紙ブランドはもっとずっと安価です。そしてしかも、優るとも劣りません。声高くは宣伝されませんけれど、生活の中にあった昔からの日本の優れものにも、ぜひ暖かい目を向けてもらいたいものです。建築主が、新奇なものに浮気しているあいだにも、日本の伝統産業は死滅に向かっています。職人の腕をおとさせているのは、誰あろう一般の建築主なのです。

 もっと予算があれば、本物が判っているのであれば…美しいものにふれたければ…匠研究室はこう考えます。お気に入りの画家に襖紙を描いてもらう。これは、外国の高価な製品を使用するよりも、何よりも贅沢なことです。もう障壁画の世界にすれすれです。そしてこれは、設計者と画家の室内構成にたいする腕くらべです。全体を作っている設計者のほうが、圧倒的に有利なのですが、結果はわかりません。その建物の設計者より、襖紙を描いた画家のほうが有名になってしまう例は、枚挙にいとまがありません。

 襖は一組だけだとは限りません。何組も用意しておいて、気分や目的に応じて使いわけることも素敵です。加山さんに描いてもらった襖は、正月に使うとか、夏は杉山さんの襖とか、ここ一番には、速水さんので決めるなど楽しいではありませんか。百万円の骨董品を買うなら、襖に絵を描いてもらうことをおすすめします。そうであれば、襖紙は鳥の子の二号紙です。あとは画家が仕上げてくれるでしょう。

 最初にも述べたように、匠研究室は、建具をとても大切に考えています。それは、日本の建築が西洋風の壁を持たず、大きな開口部を作ってきたことと大いに関係があります。そこには必ず建具がはめこまれました。そのうえ、日本の壁は平滑で、無地が多いので、あまり目だちません。ですから、建具は室内の雰囲気を決定する第一要因だと、言っても過言ではないくらいです。最近でこそ、構法の変化や冷暖房の普及で、開口部が小さくなる傾向はありますが、それでもまだまだ建具の占める面積は広く、壁より広い場合すらあります。外見で判断され易い昨今、つつましい建具や襖にも、もっともっと光をあてて欲しいものです。


次に進む            目次に戻る

「タクミ ホームズ」も参照下さい