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ハードとしての確実な家作り:実践編 | ||||||||||||||||||
22.石工事 石というと、建築に使用するよりも、彫刻や庭に使うものを、想像されるかも知れません。けれども昔から、建築の世界でも石をさまざまな形で使ってきました。古くはお寺などの柱の根元にすえられた石のように、家の荷重をすべて背負っていたのが石でした。また、玄関や風呂場などには、化粧材として石をはっています。前者が塊としての石とすると、後者は板状の石ということができます。 元来、ヨーロッパで石造りの建築というと石を塊に彫りだして、積みあげていったものです。そして、アーチやドームなどで空間を作りました。しかし、日本では地震が多いせいもあって、そうした石の使用のされかたはありませんでした。ただし地震が多発した地方でも、石の建築は作られているので、日本に石の建築がなかったことは、地震だけのせいではないとは思いますが。 鉄筋コンクリート造の普及にともなって、壁面に薄い石をはりつけるような工法が定着しました。大体25〜30ミリほどの厚さに切った石を、いろいろな工法で建物にはりつけたわけです。街中には重厚な外観を持つ、豪華そうなビルがたくさんたっていますが、あれ等がそうした例です。 住宅では、外壁に石をはることはまれです。木造の外壁に重い石をはるのは不可能ですから、石は、必然的に床に使用されます。塊としての石、板としての石といいましたが、今日では塊としての石の使用頻度は減ってきました。それは、石が高価なため、それに替わるものが発明されたからです。最も安い石の代替え品、それはコンクリートです。鋳型でぬいたコンクリート製品は、安価でしかも、形が自由にできるため、外観を問わない部分には石に替わって使用されます。 今まで述べてたのは、切り石と称される加工石ですが、石には、もう一つの顔があります。それは野面(のずら)と呼ばれる自然石の形で使用する場合です。これはもっぱら和風建築で見られ、茶室の柱の根もとの沓石や、玄関の靴脱ぎ石などがあります。また、自然石でも板状をした石もあり、床に使用されたり、腰壁に貼られたりしています。この自然石の施工は、庭園工事と重なっている部分がかなりあり、同じ石屋でも切り石をあつかう職人とは、また別の人が行っています。 切り石から説明していきましょう。切り石はもともと大きな石の山を、少しずつ切りだしてくるものです。かつては、山奥深い石切り場から人力で運びだしていたので、あまり大きな石は流通していませんでした。人が背負ってくるのに適当な大きさ、それが五十(ゴトーと読み、5寸×1尺つまり150×300×900ミリ)や六十(ロクトー、180×300×900ミリ)といった定型品となりました。 今日では、建築で切り石というと、圧倒的に板状の石をはる工事が多く、塊のままの石を使用するのは、むしろ、墓石などの建築以外のほうが多いようです。ですから、ここでは、貼石工事を中心に話をすすめていきます。石は重い(比重が2.5〜3くらい)ので、どんな種類の石をはるにしても、下地がしっかりとしていないと施工不可能です。 木下地の壁では無理で、コンクリートもしくはブロックの下地になります。一般の住宅で、石が使用される部分は、次に述べるタイルとよく似ています。門から玄関まわり、浴室、そして洋間の暖炉のまわりと言ったところでしょう。そうした所には、適材適所という具合に適合する石があります。そして、石は材種により、また表面の仕上げ方法により、全く異なった表情をみせますから、ねらった雰囲気にまとめ上げるべく、慎重に選ぶ必要があります。 一般の建築案内書はここまでいって、大理石とか御影石とかと、石の種類の説明に入ってしまうのが普通です。しかし、石の種類から入るのは少し考えものです。というのは、石は他の材料たとえば木などとくらべると、その表情にはとても広い幅があるのです。同じ種類の石でも、表面仕上げの方法によっては、別のものにすら感じます。 匠研究室では、どんな雰囲気の家を作るかを大切に考えていますから、素材から出発するのではなく、まず、作る意志=設計のねらいから出発するべきだと思っています。洋風とか和風とかだけではなく、上品な感じとか、硬質な感じとか、荒々しい感じとか、素朴な感じといった、ねらった雰囲気をまず語るべきでしょう。石は高価だから、高級住宅には石を使用するといった発想で石を使用すると、高級感どころか成金趣味になります。 高価な石の表情を楽しむのですから、色、模様、質感、表面仕上げ等などの具合が、すこぶる重大になってきます。それぞれの石の特性を、建物の雰囲気にあわせるには、とここまで書いてきて、大きな壁にぶつかっています。石は材種によっても、仕上げによっても、非常に違って見えます。そうした違いを文字で伝えるのは困難なのです。形は図を描けば伝わりますが、質感はなかなか伝わりません。例えば、代表的な石材である白い御影石ですら、ゴマ塩の程度はまちまちで、産地によっても異なり、文字による伝達は困難です。紙上で、石をどう伝えるか本当に困っています。そうは言っても仕方ありませんから、手さぐりですすむことにしましょう。 表面の仕上げ方法から述べていきましょう。三センチ以上の、凹凸の激しい<コブだし>という表面加工があります。ノミで石の表面をハツリあげるもので、以前は一般的な仕上げでした。ところが、今日では、石は丸ノコによってザックリと切断され、その切断面は平になっています。そこに凹凸を施すとなると、全面にわたって人力でハツリをかけなければならず、高価な石をますます高価なものにしてしまいます。そうした事情で、これは減っていますが、<コブだし>は豪放で、しかも素朴な味わいがある仕上げ方法です。 次にはもう少し凹凸の浅い、<小たたき>とか<ビシャン>という仕上げがあります。これは正確に言うと、荒目から細目まで等級があって、手仕上げの時代には細かいもののほうが高価でした。機械時代となって、機械がたたくようになり、そうした差はなくなりました。ところが、手仕上げ時代は、たたく密度を微妙に変えて、平面でありながら陰影をつけるなどという芸当ができたのですが、機械にたたかせると、均一に仕上げてくれます。 手の時代には職人の技術は、均一にたたくことを目ざして修業されたものでした。それが、機械が均一に仕上げてくれるとなると、陰影に欠けるとは何たる皮肉なのでしょう。そうは言っても、予算あっての仕事ですから、今日では手たたきなど、できた相談ではありません。機械たたきで我慢しながら、匠研究室では石工事をしています。ただし、機械でたたく場合は、石の四方を少したたき残すのが不得手です。機械たたきでは、多少こうした配慮が必要です。 もう少し平面性の高くなったものに、円盤ズリがあります。前述のように丸ノコで切ったあとは図のような目がありますが、これをはらった程度といったら良いでしょうか。平面であることは間違いなく、一応表面はスッてあるわけですから、スベスベです。 円盤ズリから磨きの程度を上げると、<水磨き>になります。磨くという作業は、研磨剤を間にはさんでこするわけで、かつては人力でやっていましたから、水磨きでも充分に平らで、美しい仕上げとされていました。が、ここでも機械の威力はすさまじく、あきもせずに機械は働いてくれるので、磨きの程度はどんどん上がっていきました。 かつては超高級仕上げだった本磨きも、手軽にできるようにり、遂に今日では、表面に顔がうつるくらいにツルツルピカピカの本磨きが標準、といった感さえあります。本磨きは水がかかる床に使用すると、余りにも表面がツルツルなので滑って危険です。 いままで述べた仕上げは、機械仕上げに変わりはしましたが、古くからある仕上げ方法でした。前者から後者になるにしたがって、表面の平滑度が上がって、同じ石材でも表情が非常に変わることは前述しています。 最近になって多くなってきたのが、バーナー仕上げ(=ジェット仕上げとも言う)です。これは、石を切断したあとの面に水をまきながら、1、650度前後の火炎をふきつけて仕上げるものです。熱により、石の中の石英と長石という成分をはじき飛ばして、表面をそぐので、小たたきと同じ程度の凹凸でありながら、凹凸が丸くなります。今までのものとは、微妙に異なった表情を持っています。磨き仕上げにくらべると、ややバタ臭いと言う感じでしょうか。バーナー仕上げは、重厚な石のなかにも軽さを秘めたところが、現代好みなのかも知れません。 石の石たる所以は量塊性にあるわけで、平面だけを楽しむのは少しものたりないところです。そこで、曲面加工も必要になるわけですが、曲面となると機械を使用できる範囲がグッと狭くなり、手間は一挙にはね上がります。 石は一般的な平面部の施工で、1平方メートル当たり4万円〜6万円ですから、相当高価な材料だということがお判り頂けるでしょう。(ちなみに、タイルは8、000〜25、000円/uです。)その上曲面が入ると、工賃はちょっと想像がつかないくらいの金額になってしまいます。想像がつかないというのは、曲面には機械が使いにくく、ほとんどが手仕事となり、手間賃がとてもかかるからです。ですから、曲面の形状により、その度に見積をとってみないと、正確に判らないわけです。 機械の使用はどうしても、シャープに軽い仕上げとなりますが、そういう傾向が現代に好まれているせいもあって、手仕上げは少なくなってきました。また、手仕上げによる微妙な陰影の違いを、味わえる建て主も少なくなっているのも事実です。ですから、石という素材が高価だというイメージで、石は多用されます。が、それは石が造り上げる全体的な雰囲気ではなしに、素材の値段だけを楽しむのでしょうか。あまりにも平滑に仕上げられた石は、木まがいのプリントが登場したように、石まがいのプリントにとって替わられるかも知れません。 表面仕上げと石の種類は、大変関連が深く、石の硬さによって、可能な仕上げと不可能な仕上げがあります。次に石の種類をあげていきますが、総じて硬い石は、前述の全ての仕上げができます。ところが、軟らかい石は磨いても、ピカピカに光るということはありません。今日の傾向は、御影石のような硬い石が好まれているので、石といえばピカピカツルツルというイメージになっていますが、軟らかい石にも、味わい深い素材はたくさんあります。 建築で使用する石は、火成岩、水成岩、変成岩の三つに大別されます。火成岩の代表的なものは、花崗岩に属する御影石です。御影石は建築で使用される石のなかでは最も硬く、どんな仕上げもできます。また御影石は、日本全国で産出し、産地によって少しずつ表情が異なります。 関東地方では、茨城県の稲田が有名です。稲田といくらも離れてない真壁でとれる御影石は、おなじ御影石でありながら、もう少し黒く地味な感じがします。稲田からは大きな石が大量にとれるため、大規模な工事にも対応できます。稲田の石を大量に使用した建物では、三宅坂にたつ最高裁判所があります。御影石は、熱に弱いという欠点はあるものの、硬く、磨くと美しい表面を見せます。また、外国から輸入される御影石には、黒、赤、茶などがあり、とても同じ種類の石とは思えないほど、巾が広い石でもあります。そしてまた、仕上げかた次第で、本当に多様な表情を見せます。 同じ火成岩でも、安山岩に属するものは、身のまわりでなじみ深いものがあります。白くて柔らかい白河石、ネズミ色の小松石、ざらざらした表面を楽しむ鉄平石などが有名です。 水成岩には、天然スレート、黒くて薄い玄昌石、肌色をして柔らかな砂岩、大谷石などがあり、栃木県の大谷で産出する大谷石は、塀や蔵などおなじみです。大谷石は軟らかく、風化してボロボロになっていくので嫌う人もいますが、風化していく様に味があって良いと匠研究室では考えています。この石の使用例で有名なのは、旧帝国ホテル(=在明治村)です。 変成岩は何と言っても、大理石でしょう。様々な色、模様をもつ大理石は美しく、特にヨーロッパでは様々に使用されています。国産のものは白が多いのですが、外国産では、無数に色があります。光沢をだすことはできますが、床に敷くと、柔らかい石なので、土足で歩くとたちまち減って、光沢を失います。また、屋外に使用すると、雨にうたれて光沢を失ってしまいます。大理石の一種ですが、トラバーチンという石は、軟らかい感じのクリーム色の石で、虫食いのような模様が特徴です。変成岩では、最近使用がふえてきたものに蛇紋岩があります。緑色のこの石は、模様のコントラストが強く、独特の雰囲気を待っています。 この後で述べる和風の石は別ですが、今まで述べてきた種類の石を、住宅の中で使用するようになったのは、最近のことです。事務所ビルや店舗には、たくさん使用されていても、住宅にはなかなか侵入してきませんでした。石の硬さや冷たさが、住宅という建物の性質に、なじまないせいだったかも知れません。 靴をはいた着衣のときは、石のとなりに立っても何も感じないけれど、住宅のように素足でくつろぐ場での、石の使用には抵抗があるのかも知れません。ですから石の使用には、まだ習熟していないように感じます。前述のごとく、素材としての石の魅力もさることながら、それに手を加えて、全体を構成する一要素として、石が重要な地位をしめるようになるには、まだ時間がかかるようです。 切り石の最後に、目地について、ふれておきたいと思います。目地の処理は、次のタイル工事と同様、とても大切です。住宅の石工事では、空目地(目地に何もつめないこと)とする事は少なく、目地はモルタルなどで埋めますが、目地そのものの処理以前に、壁面や床面に石をどうはりこむかの割つけが必要です。その割つけ次第で、石の面白さは、大きくも小さくもなります。タイルと異なり、石は大きさが自由になりますから、よけいに割つけが大切です。割つけをする時は、石の寸法と同様に目地巾も設計します。 ねむり目地といって、目地なしで石と石をピタリとつける施工法もあり、これは大変高度な技術が要求されます。南米はインディオがこの技術に長じていましたが、今日では完全な目地なしの仕事は不可能かも知れません。一般には石と石のあいだに目地をとります。目地巾は5〜10ミリ程度あけるのが普通ですが、目地を広くとり、目地の中へまた別の石をはりこむのも、楽しい模様になります。そして、目地を深くとると立体感がまし、浅いと平面性が強調されるのは言うまでもありません。 日本建築でも古くから石は使用されていました。ただし、切り石は少なく、割ったままの面を見せる割り肌と呼ばれる表面仕上げや、小石をそのまま敷きならべる方法が多かったようです。それ等の多くは、ヨーロッパのように壁ではなく、床に使用される例が多かったので、あまり目立たなかったのかも知れません。ここからは、古くから日本で使用されている石=和風の石について述べていきます。 日本建築は、外部と内部の区分があいまいで、明確に線引きできません。外部がいつの間にか内部へ至る、という空間作りをしてきたため、石も外部と内部を区別せず、庭園の延長として室内に侵入してきます。ですから、日本建築における石工事は、庭園工事と区別がつきません。そこで、野面(のずら)と呼ばれる自然石や、割り肌が好まれました。 野面の石を使うときは、切り石のように、石自体の加工方法に意を用いるよりも、石の並べかたが重要な関心事でした。そのうえ、幾何学的な模様ではなく、不規則なモザイク状にはるのが、日本建築に多く見られた手法でした。しかも、その表面も完全な平面とするのではなく、いくらか凹凸を残しておくのが普通でした。日本建築の美意識は、顕現するものを嫌い、無為なものを愛でたため、石をピカピカに磨いて使用することは、ほとんどありませんでした。 今日では、住宅の床というと、板ばりやカーペットばりなどになってきて、上ばきで歩くのが前提となっています。ところが少しまえまでの日本家屋は、上ばきと土足の境が微妙な形で混在していました。例えば、商店では店は土足でした。そして、そのまま裏庭に通りぬけられるような構造になっていたのを、記憶していられるでしょうか。 裏庭には、倉や倉庫があったはずです。これが農家だとタタキの土間になっていたのですが、商店では石ばりである例がずいぶんありました。また、旅館などでは、廊下をゴロタ石(10センチ直径程度の小さな丸い石)や那智石を敷き詰めたりして、土足でも上ばきでも歩けるようになっていました。 今では、住まいが住宅専用へと特殊化し、まず玄関で靴を脱ぐのが、当たり前となっています。そのため、住宅の床仕上げが画一化して、床に石をはることは少なくなっています。確かに、土足と上ばき兼用の床は汚れやすく、掃除の回数がふえたりして、維持に手間がかかるかも知れません。しかし、都市部では舗装がいきとどき、もはや靴が泥まみれになることはないので、靴のままで室内を歩いても充分に清潔な生活ができます。確かに電気掃除機の汚れ具合は、畳の部分よりも激しいのは事実ですが、生活に支障があるほどではありません。 畳は寝床にもなる部分ですから、ただ床に相当するというだけで、板の床などと一緒に論じられません。日本人にとっては、床が板や石張りであれば、土足でも歩けますが、畳のうえは絶対に歩けません。畳を土足で踏むことは、生理的なまでに抵抗があります。畳は床一般の中では、とても特殊な仕上げ方法だと思うのです。ですからかつての農家や商家のように、室内を土足で歩くことを考えると、床仕上げ材にはもっと多様性がでるでしょう。そこではもちろん、石も立派な床仕上げ材です。 畳以外の床仕上材を考える時、石はもっといろいろな部分にとり入れられても良いと、匠研究室では考えています。かつての住宅が床仕上げ材を、臨機応変に使用していたのを思いうかべるとき、今日の画一化は寂しい限りです。石は冷たいと思われるかも知れませんが、床暖房との相性が大変良く、石の床は理想的な頭寒足熱が、実現できる素材でもあります。 和風の石は、例のごとく体系的な分類は苦手で、産地や色によって区別されています。鞍馬石、丹波石、筑波石、錆石、鉄平石、六方石、小松石、新小松石、伊豆石、白河石、青石、玄昌石…。似たような表情の石ならば、石の産地や種類にかまわず、どんどん使用してしまうのが和風の石です。 最初にあげた、鞍馬石と丹波石は似ており、鞍馬石を上物としますが、丹波石でも鞍馬石の代用として通用します。淡褐色の割り肌で、大きな石もありますが、通常10センチ厚さ2〜3センチ程度の石を乱に敷きならべます。茶室からはじまって、和風の建築にはどこでも似合う石で、露地、玄関通路、浴室などで使用されます。 筑波石は淡いねずみ色で、飛石、土留めなど用途が広く、入手が容易なためひろく使用されています。錆石は、茶黄色の鉄錆が浮きでたような、堅い石です。大きな塊でとれますから、切り石としても使えます。 鉄平石も関東地方ではなじみの石です。薄く剥離した板状の石で、青系のものと赤系のものがあります。乱張りにするのが多いのですが、方形に切断して規則的にはる場合もあります。関東地方では安価な石ですから、タイルなみに使用できます。小端(こば)立てという、石の小端を見せる施工をして、贅沢な雰囲気を作ることもあります。 六方石は、直径10センチくらいの六角形断面の棒状の石で、石の棚や縁石として使用されています。灰褐色の特長ある形状は珍しいので、一度見れば忘れることはありません。通常は棚状にならべて使用しますが、頭をそろえて平面状に敷きならべるのも面白いでしょう。 小松石は、新小松石、本小松石、と違いはあるものの、墓石などに使用できるぐらいに大きな塊もとれます。灰ねずみ色のやや軟らかい石で、なかなか味のある石です。切り石として方形にも施工できるし、乱張りにも使用できる石です。やや青みががった淡灰色の伊豆石は、外部では階段の段石に使用しても周囲とよくなじみ、種々の使用場所が考えられます。 白河石とは、その名前のとおり、福島県の白河で産出する石で、灰白色で軟らかい石です。この石は、大谷石のように切り石で使用される方が多く、比較的安価な石なので大量に使用されます。軟らかいので重歩行には耐えず、すり減っていきますが、その摩減していく様子が良く、匠研究室ではよく使用する石の一つです。軟らかいといっても、住宅程度の歩行なら充分使用に耐えます。 青石はもちろん、青い石を総称しているのですが、通常は、伊予、秩父、伊勢などの産で、緑に白い模様の入ったものを言います。中国から輸入もされています。同じ緑と言っても蛇紋岩は硬く、磨けばピカピカに光りますが、青石と称されるものは、やわらかいのでいくら磨いてもそうはなりません。青石は、水にぬれると美しく表情を変えることから、浴室に使用される例が多かったようです。やさしい雰囲気を持った石で、木との相性もよく、桧の浴槽、青石の床という仕上げは上品なものです。タイル状にカットされた方形に、はられる例が多いのですが、もちろん、風呂場以外で使用してもかまいません。 玄昌石はまっ黒い石で、10〜15ミリの薄い板状です。100〜500ミリの正方形にしてはることが多く、水成岩としては硬いので、水磨きをかけて半光沢にしても使用しますが、多くは割り肌のまま使用します。古くから日本にある石ですが、硬質な表情が洋風の建物にも合うため、店舗や飲食店などでも好んで使用されています。 今まで述べてきたのは、全て天然物です。石は地球がくれた贈り物です。その石をもとにして人工的に作りだしたもので、石と同じように使用されるものがあります。テラゾーもしくは磨ぎ出し(とぎだし)と呼ばれるそれは、セメントに種石(たねいし)を混ぜて固め、磨きあげたものです。 大理石や御影石などの端材を細かく砕いて種石とし、顔料とともにセメントで一体化したもので、種石の破れ面が様々にあらわれ、天然ものとはまた違った素材となります。工場製品として、300角や450角のものが販売されています。また、床や壁などに直接に現場施工することも可能です。 かつては、石の代用品だったテラゾーも、手間が高くなったので、高級品の仲間入りをしています。特に現場施工のテラゾーは、環境汚染に神経を使う昨今、研ぐときに使う水を流す先がないために、施工不可能の場合もあります。ですからこれは、もはや高価な仕上げ、と言ったほうが良いかも知れません。 タイルといえば、焼き物というのが頭にうかびます。タイルも石とよく似た使用のされかたをします。それは一種の化粧材、つまり見ばえにのみ関係する材で、タイルをはるか否かは、家の性能とはほとんど関係ありません。タイルをはったら、断熱性能が上がるという理由で採用されるのではありません。 タイルの採用は、ただかっこう良く見えるか否かにかかっている、と言っても過言ではありません。ところが建築にとって、見え方というのはとても大切で、良い雰囲気にしろ、素敵な室内にしろ、豪華な外観にしろ、すべて見え方をいっているわけです。よりよく見せたいという願望が、様々な建築を生み出す原動力の一つだと言ってもよいくらいです。また、デザインとは見せ方だといってもよく、見え方、見せ方はゆめおろそかにできません。 タイルの話は、建物の外部からいきます。木造住宅の場合、外壁にタイルをはるのは非常にまれです。タイルは重いので、木下地にはりつけるのは、ふつうは無理です。では外部のどこに使用されるかというと、門から玄関までのあいだとか、外階段や玄関のまわりといったあたりです。つまり、主として土足で歩く床にはるわけです。 タイルの使用部位は、石のそれと似ています。張り石を高級品とすれば、タイルは中級品といったところです。普及品はコンクリート金ゴテ仕上げや、色モルタルなどでしょうか。単品として高級だから、全体でも良いとは限りませんが、とりあえず値段によって分けると、前述のような具合です。床用タイルは、歩行の衝撃にたえるため厚さ7〜10ミリくらいあり、丈夫にできています。そして、すべらないように、表面がザラザラしています。また、その上を歩く靴が土を運んでくるため、汚れが目立たないような地味な色あいのものが多いようです。 最近では、床タイルとして200〜450角程度の大きさのものが好まれています。このくらいの大きさのタイルは、コンクリートの上にうすく接着剤をならしつつ、それがかわかないうちに、一枚ずつ置くようにして施工していきます。水平や通りをまっすぐに保つため、ガイドになる糸をはって、糸にならって精確にはります。 昔ながらのモザイクタイルは、一つが30ミリくらいで、それが300角の紙に100ヶ貼りついています。ですから、300角の紙を一単位としてはりつけます。そして、接着剤とタイルがくっついたら、紙をはがします。 大きいタイルもモザイクタイルも同じように、目地に目地材をつめて全体を平らにします。タイル面に水勾配をとるのを忘れてはいけません。雨水が流れなくなってしまいますので、水勾配は確実にとり、水下(みずしも)には排水口を用意します。できれば、タイルの張り面で水勾配をとらず、下地のコンクリート面でとったほうがいい。 室内に入ると、タイルといって一番多く使用されるのは、浴室と厨房でしょう。浴室に使用し得る材は、耐水性があってカビず、しかも水で洗い流せて等という条件によって、非常に限定されます。その中でも、タイルは最適材の一つでしょう。浴槽こそFRPやステンレス、ホーローなどになりましたが、洗い場の床や壁は、圧倒的にタイルが使用されています。 床用と壁用は、材質が少し異なります。風呂の床は滑っては困りますから、30×30とか50×50といった小さなタイル、もしくは表面がザラザラしているタイルが使用されます。壁用となって、通常タイルといった時にイメージする、あのつるつるるした100角や200角のタイルが使用できます。壁用は無地物から模様の入ったもの、絵のかかれた装飾性の高いものまでいろいろとあります。もちろん、タイルのサイズが大きくなればなるほど、高価になります。 タイルは工場製品です。ですから、次々と新製品が生み出され、メーカーも販売には熱心です。ショールームには無料配付用に、たくさんの現物見本をならべています。カタログで目ぼしをつけたら、見本をもらって検討すると良いでしょう。製品についてだけではなく、施工についても、説明書がありますから、それに従って施工すれば良く、詳細はそちらにまかせます。 建築にたずさわる多くの人々は、施工精度を上げることに腐心してきました。平らなものはあくまで平に、平行な物は完璧な平行に、といったぐあいです。タイルにあってもことは同じです。まず焼き物特有の歪や色むらをいかになくすか、また施工にあたっては、いかに目地をピシッと通すかといったことに神経を使ってきました。その結果、今日のタイルの精度は素晴らしいものになっています。技術の進歩は著しいものがあり、もはやタイルの本場、ヨーロッパのそれをしのいでいるかも知れません。 施工精度を上げるのも大切ですが、タイルの面白さはつまるところ、床や壁面を色どる装飾性にあると、匠研究室は考えています。これほどタイルが普及する前つまり昔は、いろいろな陶片やガラスのかけらを、敷きならべたのだろうと思います。そうした発生に思いをめぐらすとき、今日のタイルに、もっと装飾性をもりこんだらどうか、と提案したいわけです。メーカーから供給される、完成品としてのタイルを、説明書どおりに施工するのは、どうも少しものたりないように感じます。それはもちろん、装飾性にとんだタイルを作るように、メーカーに要求することでもありません。 あなただけの家、それは画一化せざるを得ない工場製品の中に求めるのとは、方向が異なっているはずです。そこで匠研究室では、タイルの施工に関して4つの提案をします。
1、タイルに他のものをまぜてはる。他のものとは、何でもかまいません。鉄、木、プラスチック…。茶碗のかけらやビー玉、ビールビンの破片などは、同じ焼き物ですから上手く調和します。図一のように、ところどころに他のものをまぜるわけです。硬いものなら、たいていのものがはりこめます。床の場合は表面が、だいたい平にならないと危険ですが、壁の場合は多少の凹凸はかまいません。かえって、それが面白くなったりします。 この施工は、凝りだすときりがありません。タイルより違うものの方が、多くなったりしたら、もう大変です。とてつもない手間が、かかってしまいます。タイルの一部に、他の材をいれる程度にしないと、もはやタイルとは呼べなくなってしまうかも知れません。この極限が、タイルで絵を描くレリーフですが、そこまでいかなくても、充分に面白いタイル面ができあがります。 2、ふつうのタイルの目地はピシッと通すもので、そのために職人は苦労しますが、ここではタイルの目地をずらして貼ります。タイルの目地は、焼きむらによってタイルの寸法が多少違っているのを、目立たせなくする働きと、壁面や床面の中にタイルをはんぱなしにはりこむ(=タイル割りという、後述)ための調節代という役目があります。 タイル屋の技術は、この目地を小さく、しかもまっすぐにすることを目ざしてきました。ところが、ここではその目地も壁面を構成するタイルの一部として考え、目地を楽しむことを考えます。通常のタイル目地は図二のようです。それを図三のようにはります。すると目地の大きさが不揃いになって、面白い効果があります。この場合は、目地にも着色することを考えると、なお面白いでしょう。 3.タイルはふつう四角です。そのタイルを割ってから、はろうという方法です。たとえば、100×100のタイルを一度割って、破片にします。そして、その破片を定型に復原して、張り込む手法です。これは、割れ目が不規則にでて、それが目地となって新しい模様になります。やや世紀末的な味をだす手法で、ねらいが当たった場合は、大変効果的な印象を与えることができます。 4.3の手法の応用というか、1との中間的な方法としては、割ったタイルをバラバラにして、モザイクのように貼ることもできます。いろいろな色のタイルを割って、ごちゃ混ぜにしてから、何の規則性もなく張ることに、職人は心理的な抵抗があります。職人技とは規則的にすることですから、抵抗があるのは当然です。しかし無規則に張るという、このあたりになると、材料としてタイルを使ってはいますが、一種の表現行為に近くなってきます。 以上の4つの提案は、技術の進歩のほうからみると、狂気の沙汰と思われるかも知れません。毎度申しますように、職人仕事とは同じことのくり返しによる、技術の洗練にあるのですから、新しいことには、ひどくおくびょうです。しかし、今ここで述べた手法は何も新しいものではなく、発想としては昔からありました。 小石を床に敷きならべる(那智石が有名)のも、同じ発想でしょうし、その中に異形の石をまぜるなんていうのも昔からありました。そして、床一面を色モルタル金ゴテ仕上げにして、小石をほんの数コもしくは十数コばかりを不規則にうめこむ、なんていうことも先人はやっています。タイルを不規則に施工するのは、ヨーロッパでも見られ、何も新しいことではありません。 定形の中は安全ですが、それを上手に破るには、冒険をしなければなりません。冒険とは危険をおかすことでもありますから、職人衆の好むところでないのは当然です。定形化した仕事なら無条件でお金がもらえるのに、あえて危険をおかすことはありませんから。 匠研究室は人間的な臭いというか、その人という代替えできない雰囲気といったものを追及しています。それは、どうも工場製品の無条件賛美にはならない、と思えて仕方ありません。工場製品を使用しないなどという、時代錯誤をいっているわけではありません。どんなものを建築に使用しても、いっこうにかまわないのですが、選ぶ眼、これがどこにあるかが問題です。 さて、タイルに戻って、少しは一般の建築案内書と同じことも書いておきましょう。タイルは、陶器タイルと炉器タイルと磁器タイルに大別されます。焼成温度の違いによって、硬さなど材質に違いがみられます。前者が低温、後者になるに従って高温で焼かれています。前者はやわらかく味がありますが、吸水率が大きく凍害に弱い。また割れ易いので、水まわりや、雨ががかりには使用できません。後者になるとかたくなりますから、浴室などの水まわりに使用するのは御承知のとうりです。 タイルのはり方には大きく分けると、二つの方法があります。ダンゴ張りと圧着張りに大別されます。ダンゴ張りとは古くからあるもので、コンクリートやブロックまたはモルタル下地に対して施工されます。モルタルで、タイルと下地をくっつける方法です。圧着張りとは、接着剤でタイルをペタリとはりつける方法です。下地の不陸がそのままでてしまうため、下地が平らでないと困ります。圧着張りは手軽な工法のため、最近では多くなってきており、ベニヤ板などにも直接タイルがはられている昨今です。 最後になってしまいましたが、どちらの工法をとるにせよ、タイルの施工に先立って、まずタイル割りをしなければなりません。タイル割りといっても、タイルを割るのではなく、瓦割りと同様に一枚のタイルの寸法で、タイルを張る面を割りつけることです。タイルの大きさは定形ですから、きちんと割こんでおかないと、はんぱがでてしまうわけです。とくに、水道の蛇口がタイル面からでる場合は注意が必要で、タイルの真中には穴があけられないので、タイルの真中に水道管がきては困ります。 4枚のタイルの中間に管を位置させるのが理想です。また、タイルの壁面に窓をあける場合も同様で、無計画にやってしまうと、どこかに半端のタイルが入ってしまいます。ですからまず、ここにタイルをはると決めたら(設計段階でやるのが理想である)まずタイル割りをします。壁面をタイル寸法で割りこみ、墨を打ちます。その墨の上に水道の蛇口や窓をとりつけます。そうしたものがとり付いてから、タイルをはるという段取りになります。 タイルは、楽しい色をもっていますから、自由な発想で、さまざまに遊び心をひろげて下さい。それと、現物見本が無料で手にはいるのもタイルの利点です。ショールームなども、大いに利用すべきでしょう。 |
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