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ハードとしての確実な家作り:実践編 | |||||||||||||||||
25.内装工事 いつ頃から、内装工事という言葉が使われたのか、わかりません。昔からの木造住宅には、内装工事という職種はありませんでした。と言うのは、とりたてて内装を云々しなくても木工事が終わって、左官屋が壁を塗ると、部屋はもう仕上がっているのでした。天井はすでに大工が仕上げてある、建具や畳が入って壁が塗られると、もうなすべき仕事はありませんでした。 ところが、塗り壁は乾燥させる時間が必要です。何もしない時間、つまり養生期間が生じてしまいます。こうした何もしない時間は、忙しい現代にあっては省きたいものだ、と請負者は考えました。そうした背景から、左官屋による湿式工法に代わって、乾式工法と呼ばれる別の工法が、生まれてきました。また、塗り壁は平で多くは無地でしたから、どうも現代人には、地味でおもしろみに欠けるとも、思われていたようです。 以上のような事情で、元来コンクリート造の建物の内部仕上げとして、使われていたクロス張りが、木造建物の真壁から大壁への移行ととともに、住宅工事にも普及してきました。クロスとは、布のことです。ようするに壁に布を張ることを、内装工事といいます。今日ではビニール製の壁装材も、クロスとまったく同じ様に使われているため、ビニールクロスという名前で、内装工事で使用されています。ビニールクロスが安価で、大量に使用されているため、両者の区別は曖昧になってきています。ですから布クロス(?)と言わないと、ビニールクロスの見本帳が差し出されたりします。 その上、壁装材という意味からてんじて、クロスといえば壁に張る物すべてを、指すようにすらなっています。クロスの見本帳の中には、竹や杉の網代、木目帳のプリント材、プラスチックをはりつけたものなども、登場してきています。ですから、ここでも布でなければクロスではない、とこだわらずに、壁装材として内装職人によって施工されるものは、すべてクロスと呼ぶことにします。 クロスを張るにしても、下地が必要です。下地は見えなくなってしまいますから、堅固でありさえすれば、安い方がいいわけです。クロス下地には、石膏を厚紙でサンドイッチした石膏ボード、という3×6尺の板状の材が使用されています。天井に使われるのは、厚さ9ミリですが、壁には12ミリのものを使います。とくにコンロの近くなど火のまわりには、12ミリ以上の使用が、義務ずけられています。また、防音や強度を増すために、12ミリの石膏ボードを二重張りにもします。石膏ボードの固定に鉄釘を使用すると、錆びた鉄の頭がクロスを透かして見えてしまうので、亜鉛メッキされた釘を使います。 塗り壁と異なり、薄いクロスを張るので、下地は平らでないと困ります。ところが石膏ボードと石膏ボードを図のように、突き付けではっていくため、どうしても多少の目違いができます。クロスは薄く柔らかいので、ほんの少しの目違いでも、おもてにでてしまいます。ですから、パテでしごいて平らにする下地処理をします。パテは乾燥により、縮んでしまいます。一度塗りだと、パテが痩せて、へこんでしまいます。できるだけ薄く、二度三度とパテを塗り、サンドペーパーで平らにします。こうして平らにしたうえに、クロスを張るわけです。 建築職人の高齢化が進むなかで、クロス張りの職人だけは、若者が集まっています。その理由は、クロス張りは短期間の修業で習得でき、その技術は3ヶ月もやれば、おおよそ一人前の仕事ができること。そのために新規参入が容易で、しかも、それだからといって、決して低賃金でないこと。内装工事は工事工程のなかでも、最終仕上部となるため、工事おくれのシワ寄せが集中し、徹夜仕事になることも多い。そのため、体力的に丈夫な若い人でないと勤まりにくいこと。そして、伝統的な職種、たとえば瓦屋とか畳屋の仕事量が減っているなかで、クロス張りの仕事量が増えていることによります。 匠研究室のクロスへの評価は、決して高くありません。室内を構成する様々な要素を、細かく配慮して組み立てますが、クロスはその表面的な模様で、室内の雰囲気を一挙に決定してしまうからです。設計とは、床、壁、窓、天井、照明、金物、額縁、巾木…細かい部分の積み上げです。 クロスの表面に印刷された模様が、室内の雰囲気を決定してしまうとしたら、前述の細かい配慮は、無用のものとなってしまいます。大量生産品であるクロスの使用は、往々にして単調で大雑把な室内になりやすいのです。ですから、匠研究室ではあまり大威張りでは、クロスを使いたくないのです。むしろ、室内の仕上げにクロスといったときは、設計者の発想の貧しさを示すものだと、自戒しています。 そうは言っても、クロスをまったく使用しないのではありません。クロスにも、長所はあります。まず何と言っても、施工が簡単です。張り替え=模様替えにも、簡単に対応できます。値段は、材工共で1、000円/u位からあります。この価格は、最も安いビニールクロスに限られますし、施工面積も最低でも100uは欲しい所です。1日分の仕事量に満たないような狭い施工面積では、この金額では無理です。 ビニールクロスでも、通常は1、500円/uからでしょうか。布クロスの中級品で2、500円/uくらい、高級品で4、500円/uくらいといったところでしょうか。特殊なクロスになると2万円/uというのもあり、これらはナイトクラブや店舗などで使用されます。塗り壁が2、500円/uくらいですから、クロスは決して安価な材料ではありません。けれども、簡便であるがゆえに、安価だというイメージがあって、使用例が増えています。 クロスには、無地物と柄物があります。無地物は柄合わせの必要がなく、ロスが少ないので、実施工面積の一割ましの材料ですみます。また、無地物でも、エンボス状に凹凸の大きいものは、下地の不陸を隠してくれて、下地条件の悪いところや、張り替えには便利です。 柄物になると、柄合わせが必要です。そのため材料に無駄がでやすく、二割ましの材料をみておかなければ、足りません。クロスももちろん工場製品ですから、見本があります。サンゲツ、リリー、スミノエ、カワシマといったブランドが、よく使用されますが、どれも大差はありません。柄と値段さえ折り合えば、どれも同じです。ただし毎年新柄が発表されて、少しずつ入れ替わっていますので、張り替えの時に以前と同じ物を、というわけにはいかないようです。 クロスの施工は、裏にのりを付けて、天井のほうから張っていきます。のりづけは機械がしますので、均一にのりは付きます。最初に張ったクロスのとなりに、2〜3センチほど重ねて、次のクロスを張ります。次に、二重になった部分に定規を当てて、カッターで二枚とも切ります。下になったクロスのはしを取り除き、上からローラーをかけて、しっかりと接着します。 やさしいといわれるクロスの施工にも、もちろん技術は必要です。前述のごとくに突き付けで張ってありますから、のりの調子が難しいわけです。のりを効せすぎると、クロスをひっぱってしまい、継ぎ目から下地が見えてしまいます。のりが効かなければ、剥がれてしまいます。というわけで、下手な施工は直後には問題がなくとも、半年もたてば欠陥が露呈します。また、こすられたり、触れられたりする部分は、端が剥がれないように、コーキングをして、押さえておく配慮も必要でしょう。 内装工事の主なものは、クロス張りですが、もう一つ大きなものがあります。それはカーペット敷きです。最近では、カーペットから木張りの床へと、流行は移っていますが、カーぺットは西欧人が永年にわたって、育んできたすぐれた床仕上げ材です。室内を靴であるく人々には、欠かすことの出来ない床仕上材です。カーペットは弾力性、保温性、吸音性、歩行性(ただし土足での)、装飾性などに富み、人にやさしい床仕上げ材です。 ウール、レイヨン、ナイロン、アクリル、ポリエステルなどが素材となり、ウールを最上とします。ウールは弾力性、吸湿性にすぐれ、非帯電性なので静電気の心配もありません。すべての面において優れているウールですが、唯一の欠点は値段が高いことです。普通、材工共で10、000円/u以上ださないとウールは使えません。本当にウールのよさを楽しみたいのなら、13、000円/u以上のものをお薦めします。安物のウールを使うなら、高い化繊物のほうが優れています。化繊物なら、6、000円/uくらいからあります。 以前は、カーペットと言えば織物でした。そして、織り方にも何種類かありました。ダンツウとよばれる手織りものもありました。ペルシャ、トルコ、シナカーペット、等が有名です。弾力性、装飾性、保温性いずれも優れています。しかし、これ等は一種の家具であって、しかも超高級品です。 ウイルトン・カーペットは、カーペットの代表でした。18世紀の中頃、イギリスのウイルトンで生まれた織り方で、最も耐久性があります。縦糸と横糸が何層にも交差していて、しっかりとした手応えをもつ厚手のカーペットです。 アキスミンスター・カーペットは、19世紀の後半になって、アメリカで発明され、イギリスで育った織り方です。ウイルトンにくらべて、装飾性にすぐれ、絵を描いたような華麗なカーペットができます。 タフテット・カーペットは、全く異なり、織物ではありません。タフテットという名前のとうり、基布となる一枚の布に、刺繍のようにミシンで糸をさして作ります。そして、裏からゴムなどで補強したもので、大量生産ができます。 今では、カーペットと言えば、タフテットをさすくらいに普及したカーペットで、弾力性、歩行性、などの性能においては、前二者に劣りますが、何よりも安価なので大量に使用されています。化学繊維を主なる材料としていますが、ウール・混紡物などどんなでも使用できるので、まさに今日的なカーペットです。後で述べる、グリッパー工法という敷きこみかたとよくあった、いわば床仕上げ材としてのカーペットです。 ニードルパンチ・カーペットは、カーペットと呼んではいますが、毛足のある前三者とは異なり、堅い毛布のようなものです。ですから、前者らとは使用場所もことなり、展示場の床、仮設建物の床、工場の通路などに向いています。床下地に接着剤や両面テープで、密着させるように施工し、2、500円/uくらいと非常に安価です。 カーペットの敷き込み方には、2通りあります。一つは部分敷きと呼ばれ、定型にカッとされたカーペットを直接、床の上におく方法です。これが最も古い方法で、高級手織カーペットは、すべてこの方法です。一度仕上げられた床の上に、たとえば木を張って仕上げた上に、カーペットをひろげます。カーぺットの歴史の長いヨーロッパやアラブに多いものです。外に持ち出して、畳をたたくのと同じように、たたいて掃除をし、清潔に保ちます。
ヨーロッパからアメリカへと大西洋をわたる時、カーペットは使用方法を少し変えました。アメリカではカーペットは、部分敷きではありません。部屋全体、建物全体の床に、隅から隅まで敷き詰められるようになりました。ヨーロッパのカーペットはその模様によって、部屋の装飾品をも兼ねていたのにたいして、敷き詰め方式のカーペットは、純粋な床仕上げ材へと転化しました。家具としてのカーペットから、建築部材としてのカーペットへと転化したため、無地物が多く使用され、しかも、消耗品として何年かに一度は、アメリカのカーペットは交換されます。アメリカのカーペットは、ちょうど日本の畳と同じです。畳の表替えをするように、消耗したカーペットはあっさりと交換されます。これはアメリカで化学繊維が発売されて、タフテット・カーペットが安く供給されるようになって、はじめて可能になったのでした。安価になったせいで、庶民にもカーペットが使用できるようになりました。 アメリカのカーペットは、部屋一面に敷き詰めるため、床仕上げ材としての性能は、置き敷きカーペットよりはるかに厳しいものが要求されます。床に固定してしまうため、外へ持ち出して掃除ができません。汚れにくくする研究と同時に、掃除の方法も開発されなければなりませんでした。カーペットを叩く機構を内蔵した、吸い込み式の電気掃除機の発明は、カーペットの普及に不可欠のものだったのです。 ナイロン・カーペットが静電気を、帯電しないはずはありません。この帯電性も、克服せねばならないものでした。次第に、厳しい要求も何とか解決され、アメリカではカーペットが、床仕上げ材の標準仕様となってきました。カーペットによって、階下への靴音も減らせましたので、アパートなどでも騒音がずっと減りました。それにしても、彼らが室内でも靴のままだったことは、カーペットにとっては幸運でした。 靴をはいた足には、ふんわりとしたカーペットの感触は、すこぶる気持ちのいいものです。靴とカーペットというコンビネーションが、快適な床の歩行感を保証してくれるのです。しかし、素足であるく床の仕上げ材としては、今のカーペットでは、まだまだ繊細さにかけるのです。 ヨーロッパのカーペットは家具と同ように、居住者によって購入されます。ところが、敷き詰め式のカーペットは床仕上材ですから、建築工事として内装業者によって施工されます。敷き詰め式は、床全体を覆ってしまいますから、下地を問いません。堅固でありさえすれば、板でも、コンクリートでも、なんでもかまいません。 タフテット・カーペットは厚さが薄いので、部分敷きのカーペットに比べると、弾力性に欠けます。そこでまず、下地の上に、アンダー・フェルトと呼ばれるクッションを敷きます。アンダー・フエルトとカーペットの両者によって、弾力性を確保しようというわけです。 タフテット・カーペットは、グリッパー工法によって施工されます。これは壁に、グリッパーと呼ばれる短い釘のはえた細木を打ち付け、その釘にカーペットを引っ掛けて固定する工法です。釘は壁のほうを向いていますから、ニーキッカーという道具でカーペットをつかみ、膝で蹴ってカーペットをのばし、グリッパーに引っ掛けます。カーペットは糸に方向性がありますから、グリッパーでしっかり固定しないと、歩行時の摩擦によって、カーペットが泳ぎだしてしまいます。 カーペットは、無限に巾広のものは生産できません。4〜6メートルが定尺で、それ以上の巾広物は、接ぎ合わせることになります。以前は、接ぎ合わせは、現場で縫っていました。しかし、今日ではタフテット・カーペットが主流になったことと、縫い合わせるのは手間がかかるため、ヒートボンド工法という糊ずけ式が中心になっています。とりわけグリッパー工法で施工される場合には、糊づけがもっとも適しており、ほとんど目立たなく接合できます。ただし、柄物ではクロスと同様、柄合わせが必要です。そのため、実施工面積の二割まし程度の、材料が必要になります。 カーペットは靴で歩く床の、仕上げ材です。ですから、畳のようなデリケートさはありません。たとえばグリッパーの釘は、敷いたあとも上向きになっていますから、その上に素足でのれば痛いわけです。靴ばきであれば、なんでもないことも、素足のための床仕上材となると、もう少し解決せねばならないことがあるようです。そうした事情で、日本の住宅にあっては、カーペットが絶対よい、という推薦品ではありません。けれども、こうしたカーペットの成り立ちを知ったうえで使用すれば、カーペットは充分にその魅力を発揮してくれます。 今日、畳の部屋は、どんどん減っています。最近新築される家を見ていますと、30坪くらいの家でも、畳の部屋は一部屋あるかないかです。それも、主なる部屋に畳が使用されているのではありません。予備室などという名前をつけられて、片隅に作られる部屋に、畳は使用されている例が多いようです。 素足のための床仕上げ材として、畳は出色ものです。これだけ優秀な建築部品を発明した民族はいない、と断言しても良いくらいに畳は優れたものです。その理由は、ほかで述べましたので、繰り返しません。しかし、それにつけても、畳の使用が減ることは、本当に寂しいかぎりです。 私たちは、自分たちがいま持っている財産を改良して、新しい使用目的に合わせるのは、どうも不得手のようです。それよりも、外国にある未知なるものを持ち込む方が、カッコイイと思っているのでしょうか。とりわけ、一部の設計者は、布団よりベッドの方が衛生的だとか、畳よりカーペットの方が優れているとか、茶の間よりリビングルームの方がいいとか、妙なことを言いたがる癖がありました。こうした世の流れには、反しているかも知れませんが、畳は優れている、と匠研究室はもう一度強調しておきます。 一軒の家の総工事費にしめる畳の割合が減ってきたため、今日では見積書に畳工事という独立項目は、なくなってしまいました。今日では畳の項目は、たいてい内装工事の最後にあげられています。たしかに、それも仕方ないことかも知れません。と言うのは、一畳が10、000円としても、六畳の一部屋にしか畳がなければ、全部でも60、000円にしかなりません。総工事費が1千万円以上する中での、60、000円です。1%にも満たないのですから、もう無視されても仕方ない金額です。この金額では、独立項目になり得ません。 畳の意義については、<考える家>でかなり詳細に論じましたので、ここでは技術的な話にかぎって述べます。まず、畳を敷きこむ下地です。荒床といって、松や杉の板が張られた昔とは違って、今日では荒床もラワン合板を使用しています。ですから、施工精度も上がり、床下から、すきま風が上がって来ることも少なくなりました。しかし、荒床と壁との取り合い部には、まだまだ問題があるようです。
荒床と壁との間には、畳寄せという部材をいれて、壁と畳を見切りますが、この畳寄せと荒床との間に、隙間があいていることが多いようです。この隙間は、そのまま床下まで続いていますから、すきま風の通り道になっています。完全に密閉してしまうのは、通気を止めてしまうので、畳のためには、余り歓迎できないのですが、このままでは人間には少しつらいところです。ですから、畳寄せとの間に、新聞紙をつめておくのは、すきま風を防ぐうえで、よい方法だと思います。なんだか原始的な方法だと、思われるかも知れませんが、完全に密閉しないという意味で、新聞紙を使うのは、なかなかよい方法です。 畳は機械でつくられるようになって、性能が上がって、しかも丈夫になってきています。畳は、三つの部品からできています。芯となる床(トコ)、それをくるむ表(オモテ)、それに縁(ヘリ)です。床と表の組み合わせは、何通りかありますが、高価な畳は、当然のことながら床も表も高価です。安いものは8、000円くらいから、上は50、000円くらいまであります。 床は堅く重いものを上物とします。つまり、大量のワラを、6センチの厚さに圧縮しているのが床ですから、より大量のワラを使用しているものほど、堅く重くなっていく道理です。ですから、大量のワラを使用しているものほど、高級品ということになります。京畳は、5.5センチですが、この原理はまったく同じです。ふつう畳の厚さの約8倍のワラを、圧縮形成します。 高価なものになると、畳の角をきちんと出すため、四隅に板をいれたりします。こうなると、機械にはかかりませんから、手縫いになってしまいます。かつては、すべて手縫いでしたから、ピンキリの差がたいへん大きかったのですが、機械縫いの床になってからは、安物でも性能が上がっています。ですから、よほどのことがない限り、板入れの床はつくらなくなりました。 最近では、減反政策によって畳の材料になる、ワラが不足してきました。また、間違った使い方によってですが、畳にはダニがわいたりしてきました。そこで、床材はワラだけではなく、木質系のボードや発泡スチロールなども使うようになってきました。新素材を使った床は堅さが直接的で、いささか奥行きに欠けますが、日常に使うなら何等問題はありません。新素材を使った床でも、以前の床より優れてさえいます。床の平均点が向上したことは、畳全体の性能向上につながっています。 イグサを横糸、綿もしくは麻糸を縦糸として織ったものが畳表で、これにも、いろいろと種類があります。床の間などに使用される琉備(りゅうびん)、丈夫さが売り物の琉球(りゅうきゅう)、最も普及している備後(びんご)、といったところでしょうか。その中でも最近では、表といえば備後表だけ、といっても良いくらいになってしまいました。備後表とは名前の通り、備後地方、いまの広島県でつくられた表をいいます。それが有名だったので、同じようにしてつくられる表は、熊本など他の地方でつくられても、備後と呼んでいます。最近では、中国や韓国などからも輸入されています。殿様商売をしている広島にたいして、最近では熊本のほうが畳の普及に熱心です。 畳の目数などと言う言葉も、だんだん死語になりつつありますが、当然のこととして、目数の多いものを上物とします。イグサは芯が空洞なため、弾力があり、断熱性や保温性に優れています。畳表は裏返してもう一度使えます。ただし、イグサの表面がささくれだってくるまで使ってしまうと、裏返しては使えません。 畳は一枚では用をなしません。源氏物語の昔はいざ知らず、今日では部屋一面に敷き詰めますから、部屋のしつらえと合ってくれなければ困ります。関東地方では、部屋の形に合わせて畳をつくります。関西地方の畳がすべて同じ大きさであるのに対して、関東では部屋によって、畳の大きさが微妙に違います。大きい部屋の畳の方が幾らか大きくできています。 敷込み方です。柱の中心に、畳の継目をもってくるのが定法でした。最近は、家の作り方が変わってきました。そのため、一方の柱の中心にもってくると、反対側が合わなくなると言った案配で、定法を守るのが難しくなってきました。これを完全に実現するには、設計の時から畳の割付をしなければ、不可能です。また、吉凶によって、畳の敷方をかえるという話もありますが、前述のとおり関東では畳の大きさがまちまちなため、それはできません。
関東地方では、左図の上のごとくに敷き込むのが、一般的です。下のように敷き込むのは、どうしたわけか嫌われています。畳が四方から出会うように敷いてはいけない、と教えられてきましたが、その理由はよく判りません。施工する方からみると、四枚の畳を一点に集めるのは難しく、ずれてしまいがちです。 畳が敷居と接するきわにのると、畳が身体の重さで圧縮されて縮み、その時にこすれて音がすることがあります。この音がクレームとなったことがありました。これはいくらか時間がたてば、自然と馴染んできて消滅します。しかし、畳の縁は踏まないのが作法だったわけですから、以前はあまり聞かない話ではありました。 匠研究室では、畳を何とか復権させたいと考えています。もちろん、畳が廃れいく理由は、時代とともに歩けない畳そのものの属性にあります。つまり、日本人の生活様式と、合いにくくなっていることにあります。外では洋服を着て、靴をはいていますから家の中に入ってくるときは、どうしても靴を脱がざるを得ません。 靴を脱いだときの洋服姿というのは、本当にアンバランスです。ズボンのすそは畳にすれて、たるんでしまいます。また、畳の上に座るためには、足をおらなければなりません。正座、あぐら、横座り、いずれも洋服には馴染みません。素足の生活と洋服という、異質な両者を同時に選択している私たちには、床仕上げ材の定番が持てないのでしょうか。 元来が日本の生活様式は、小さいときからの訓練に、支えられるものが多いようです。たとえば、箸の使い方をとってみてもそうです。日本人が、ナイフやフォークの使用に熟達するのは、比較的容易です。しかし、外国人が、箸の使用に熟達するのは、いくらか難しいようです。つまり、日本の生活様式は、小さいときに訓練を受けないと、馴染みにくいのです。ですから、日本人であろうとも、畳での生活の訓練を受けずに成長した人には、今さら畳での生活様式を身につけることは、苦痛にすらなっているはずです。 日本人は、世界中で最も醜い体型の人種だ、と誰かが言いましたが、その醜い下半身を作ってきたのも、畳の床座に違いありません。とすれば、床座を可能ならしめた畳こそ、排除されても仕方ないのかも知れません。けれども、匠研究室はそうは簡単に畳が捨てられないのです。 畳を捨てられない理由は、日本建築の最大の特長が、靴を脱いでの生活にあると思うからです。日本建築の特徴がさまざまな角度から議論されますが、匠研究室では素足の生活こそ、日本の住宅の本質だと思っています。板張りの床を土足で歩けても、畳の上を土足で歩ける感覚を持った日本人はいないでしょう。ですから、素足の生活を支えてきた畳を捨てることは、日本の住宅の存在意義すら失うことに、つながりかねないからです。素足の生活が変えられないものなら、それを育ててきた畳もやはり捨てられないはずです。 着物に替えて洋服を選んでしまった、下駄に替えて靴を選んでしまった私たちには、次の運命として、畳も捨てざるを得ないのかも知れません。おそらく、そうでしょう。けれども畳に代わる何が、素足であるくための、床仕上げ材としてあるでしょう。カーペットのところでも述べたように、床仕上げ材は、人間が肌をつけざを得ない唯一のところです。床は、人間の皮膚感覚を決定する部分です。目でみるだけの壁や天井とことなって、肌にふれる床材の選定には、本当にデリケートな配慮が必要です。もしあなたが、室内で靴を脱いで生活するつもりなら、ぜひ畳に再考の一瞥あたえてください。 |
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| 「タクミ ホームズ」も参照下さい | ||||||||||||||||||