ハードとしての確実な家作り:実践編 

4. 木工事 その1

 基礎工事が終わり、しばらく放置してあった現場も、どうやら土となじみ、落ち着いてきた頃でしょう。鉄筋コンクリート製の基礎のうえには、土台も敷き終わり、あとは柱などの木組をのせるばかりです。

 基礎は鳶の仕事でした。この先からは、木工事、つまり大工の仕事へと移ります。昔から、家作りは大工次第と言われるくらい、大工の責任は重大です。普通言われる大工には、二つの意味があります。まず、建築工事の総括責任者つまり請負者=棟梁(とうりょう)という意味です。もう一つは、木をあつかう職人としての大工職という意味です。ですから、これ以降、総括責任者であり、かつ大工職の長という意味では、棟梁という言葉を使います。そして、大工とだけ言った場合は、木工職人をさしています。

 昔は、自分の山から木を伐りだして、製材にかけて、それを何年もねかしてから、家を建てるということもありました。しかし今日では、製品化された木材を、材木屋から買って来るのが一般的です。立ち木、つまり、地面から生えている木が、いきなり柱となってしまうわけではありません。その過程は、また好奇心と興味の対象となるのですが、ここでは、材木屋に並んでいる材木から、話を始めることにします。

 材木屋にいきますと、リン場と呼ばれる貯木場には、独特の臭いをもった、たくさんの材木がたててあります。それ等は、さまざまな規格に従って、大小のグループに分けてありますが、大別すると、次の三つになります。構造材と造作(ぞうさく)材と人工材(適切な名前がないので、便宜的にこう呼ぶ)です。

 構造材とは家の骨組になる材で、柱や梁、土台と言った荒物です。それらは、カンナで削られることなく、そのまま使われます。造作材とは、敷居(しきい)や鴨居(かもい)用材また天井板などの化粧物です。もちろん、構造材も、造作材も、両方とも木材ですから、本質的な違いがあるのではありません。また、柱のように、構造材でもあり、化粧材でもあると言ったものがありますから、厳密に分けることはできません。次の人工材とは妙な名前ですが、これは工場で作られるものです。例えばベニヤなどです。また、材木ではありませんが、断熱材や石膏ボードなども材木屋あつかいになっています。

 
天井上と屋根のあいだを小屋と呼ぶ

 構造材は、桁(けた)より下の柱材と、屋根まわりに使用される小屋材に、大別されます。小屋材とは、桁、梁(はり)、そして母屋(もや)、束(つか)、棟木(むなぎ)、垂木(たるき)、野地(のじ)板と言ったものです。最近は、小屋材もきちんと製材された角材が使用されますが、かつては、どこかに丸太の名残をとどめた材を使いました。これは、製材が木挽(こびき)職人による手挽きだったため、角材を作る手間をはぶいて、必要最小限の製材で済ませたためでした。

 小屋材は構造を負担するだけで、屋根と天井のあいだに隠れて、まったく見えません。ですから、見て美しいことは求められず、強度だけを必要としました。それには、何よりも木の芯を通すことでした。そのためもあって、丸太からきちんと角材をとりださず、一部丸太の表面を残したまま、製材されました。

 こうした丸太の部分を残した材木を、押し角(おしかく)といいます。押し角は、より少ない材積で、正角(しょうかく)材と同じ強度(場合によってはそれ以上)を保てます。逆に言えば、より小径材から同じ強度の製品が得られますから、正角材より安いのが普通でした。ところが、最近は、大工手間が高くなったため、加工に手間のかかる押し角は、あまり見かけなくなっています。それともう一つ、外国産の材が安く輸入されるため、内地材が駆逐されたこともあります。外材は、外地挽と内地挽がありますが、いずれにせよ、正角材となります。

 同じ小屋材でも、長い距離を下に柱なしでとばすためには、太い丸太材がそのまま梁として使用されました。太い丸太のままの材が、天井裏つまり小屋の中を縦横に走っているのを、古い民家で見ることがあると思います。あれほどたくさん使用することは今日ではまれですが、丸太材は木の目が切断されてないため、同寸法の角材にくらべると、ずっと丈夫です。

 丸太材は、表皮をチョウナではつり、そのまま使用するナグリ仕上げの場合と、両側をはつり落として、タイコ状の断面にしてから使用する場合があります。ナグリ仕上げは、いわば化粧的な使い方で、今日ではあまり見かけません。丸太の両側は荷重を支えるためには役立ってはいず、むしろ、梁の自重を増すだけで、百害あって一利なしです。ですから、構造材としてだけを考えれば、タイコ状に落とすのは理にかなった使用法です。

 丸太材は、建築用の木材種の中では少し変わっており、いろいろな樹種を使います。角材は、杉や桧と言った針葉樹ですが、丸太材はいわゆる雑木つまり広葉樹を使用します。(マツは、針葉樹だが、丸太材としても使用する。)しかし、丸太の扱いは手間がかかるため、今日ではあまり使われなくなりました。それに替わって、角材が使われる昨今です。



断面寸法 断面寸法

3寸5分(105) 4寸(120) 3寸5分(105) 4寸(120)
3メートル
4メートル
6メートル × ×

 桁から下に使用する木材で、金額的に大きいものは、何と言っても柱です。このあたりから、木材の価格体系は複雑になります。柱は正角と呼ばれ、きちんと正方形断面に製材されています。木材市場を流通しているものは、規格品です。柱は、三メートル(十尺)四メートル(十二尺)六メートル(二十尺)物が多く、六メートル物は、一階二階を通す、通し柱として使用されます。また、太さも百五ミリ(三寸五分)角、百二十ミリ(四寸)角の二種類は、常備品としてどこの材木屋にもあります。そして、それぞれ杉と檜(ひのき)の二種類が用意されています。杉材の方が安価で、檜のほうが高級品と称されているのは、周知のとおりです。(杉にも、高価なものもある)

 これだけなら木材の価格は、特別に複雑ではないでしょう。太さ長さは、体積の単位量(=材積)に換算してしまえば、同質のものとしてあつかえます。また事実、概算見積りなどの時には、1m3(立米:りゅうべい)という単位量を使用します。ところが、材木のやっかいなところは、これに等級と産地が加わってくることです。とりわけ、節のあるなしが、建築主に問題とされるため、市場もそれを反映して、節のあるなしによって、大変な値段のひらきを見せています。当然、節のないものつまり無節(=無地)物は、高価です。どれくらい違うかと言うと、2桁も違うことすらあります。

 柱は、二等、一等、特一等、小節(コブシ)、上小節(ジョウコブシ)、無地、柾と、だいたい七段階ぐらいに分かれます。二等は<押し角>、一等は正角、特一等は正角の中でも節があるが良質なもの、小節とは小指大の節が三〜四以下、上小節とは小豆大の節が一〜二以下、無地は全く節のないもの、柾とは無地でしかも木目が平行なもの、という具合です。

 本来、木には必ず節があります。しかも本当の自然材は曲がりくねり、建築用材としては、なかなか適しません。そこで、節をなくし、まっすぐに育てた人工の自然材が、育成されています。多くの建築用の木材は、全くの天然、自然ものではありません。苗木から、成木となって、市場へでるまでには大変な人手がかかっています。ですから魚で言えば、いわば養殖ものです。これらが柱材として、市場にでまわっています。

 節を完全になくすわけにはいきませんし、木である以上、節のないものは、養殖ものと言えども少量です。少ないものに需要が多いのですから、無地物は高価になります。これで等級の発生する理由は、お判り頂けると思います。もちろん、二等が最も安く、無地そして柾が最も高価です。ヒノキの3寸5分角(105×105ミリ)の二等で、3、000円くらいなものが、無地と言うだけで3万円という金額になります。柾の柱は、およそ30万円くらいだと思いますが、きわめて少量しかないので、本当に買うとなったら時価相談になるでしょう。

 
柱の4面

 これだけでは、まだ、木材の値段は決まりません。柱には図の1〜4まで、四面あります。このうち、どの面に節がないかが、問題になります。一面だけ無地か、二面が小節か、それとも四面すべてが上小節なのかという違いがあります。そこで、一面だけ無地か、面それも隣あった二面か(1と2、2と3など)それとも相対した二面か(1と3、2と4)もしくは、三面か四面かということによって、値段が違ってきます。

 最後に産地です。木材は、野菜や果物と同じく、農産物ですから、天候や地味と言った自然条件によって、品質が異なります。同じ桧でも、木曽の産と、青梅の産では別の木かと思うくらいに違います。以上の条件を満たしてはじめて、木材の買い入れができます。材木屋に行くと、柱一本一本に次のように書いてあります。

 桧  遠野  一方無地  105×105×3.00
 桧  吉野  二方無地   105×105×3.00
 桧  高知  特一等    120×120×4.00
 桧  不明  三方上小節 105×105×4.00

といった具合いです。それぞれ左から、材種、産地、等級、寸法を表しています。ちなみに材木屋では、柱を乾燥させやすいように、天地逆に在庫します。その時に読みやすいようにと、立木だったときに根元だったほうから、書いてあるのが普通です。

 それともう一つ、木材には相場性があります。木材自体が投機の対象にされているため、毎日少しずつ値段が変動していきます。こう書いてくると、木材は水もの、素人には恐ろしい世界と思われるかも知れません。しかし、棟梁が木材を仕入れると言っても、材木屋にくらべれば値動きには素人です。また、棟梁自身が投機をやるのではありませんから、棟梁と言えども、材木屋を信用して買っています。最近は、大きな建築会社は、産地直買いなどの手段をこうじて、流通経費をはぶいて買う努力をしていますが、町の棟梁にはできないことです。棟梁に可能なことは、せいぜい安い時に多少なりとも多めに買いこむことぐらいです。

 柱材としてあつかわれるのは、3寸5分(105ミリ)角以上です。これ以下の角材は、ガタッと値段が下がり、一本売りということはありません。ほとんどが、四本、六本、九本、という束(そく)になっていて、束のまま売買されます。間柱(まばしら)、貫(ぬき)、根太(ねだ)、大引(おおびき)等の構造材は、節やキズは云々されず、まとめていくらです。つまり、木の肌を手カンナ仕上げで見せる化粧材の場合だけ、木材の値段は特に複雑な体系をもってしまいます。とりわけ柱が、構造材でもあり化粧材でもあるということで、大きな値のひらきとなるのです。柱以外の構造材の場合は、1m3(立米:りゅうべい)いくらで終わりです。

 次に、造作材(=化粧材)です。造作とは、構造とは無縁の部分で、しかも目に見える箇所を言います。天井(てんじょう)、長押(なげし)、鴨居(かもい)、敷居(しきい)、棚、戸袋、廊下、階段等です。これらについては、木工事その3で詳細に述べますが、こうした部分に使用される材は、手カンナ仕上げですから、無地物が多用されます。そこで、また、等級や寸法によって、大きな値段のひらきがあります。特に巾広の板物になると、ほんの少し広くなっただけで、値段が数倍になったりします。ですから、ラワン以外(ラワンは巾広材がたくさんあるので巾が値段に跳ね返らない)の造作材については、一品一品現物の値段を、あたってみた方が確実です。もちろん造作材は、構造材よりずっと高価です。

 最後の人工材は、工場生産品ですから、均一な品質を持ち、値段もそこそこには明確な基準を持っています。ラワンベニヤ(910×1820×12)が1枚で2、500百円くらいでしょうか。(同じラワンベニヤでも、コンパネと呼ばれるものは900×1800×12で、1、300円くらい)現物を見なくても、電話注文がききます。

 最近は人工材の中でも、集成材と呼ばれるものがでまわってきました。集成材とは、米杉などの安い外材を芯として、外側に杉や檜の無地の薄板をはりつけたものです。構造材としても、化粧材としても、いろいろと生産されています。ただし、人工材だからといって、決して安くはありません。檜を張った3寸5分(105ミリ)角10尺(3メートル)の柱で8、000円くらいでしようか。

 今まで、構造材とか造作材・化粧材とか、細かいことを述べてきました。どんな家でも木材を使うわけですから、経験的な平均値がないかと思われるでしょう。実はあります。棟梁たちは、建築主と打合わせるとき、使う材料をいちいち一本づつ拾って、積算しながら話してはいません。概算式を使っています。大雑把にいって、並物の木造住宅では、坪当り8万〜10万円ぐらいが、平均概算の木材の費用と言われています。荒見積には、(30坪の家として)
 30坪×85,000円/坪=2,550,000円   という数字が計上されていたりします。

 匠研究室では、もちろん、一本拾いと言って、柱一本、垂木一本、天井一坪まで詳細に計上してもらいますが、建築主と棟梁が直接交渉で話をすすめる場合は、一式いくらという見積りが多いと思います。これは一本拾いを見せられても、建築主に査定する能力がないから、見せる必要がないだけで、信用の支配する世界です。誠実な棟梁であれば、建築主の無知や信頼を良いことに、ボルようなことはありません。全てまかせろと言ったきり、細かい説明をいやがる施工者には、少し用心した方が良いかも知れません。

 70才の棟梁が総工事費1、100万円の工事請負に対して、提出した見積書は実に詳細でした。木材だけで9ページにわたって記されておりました。良い仕事をする棟梁は、今も昔も豪胆にして細心であることは変わらないと、改めて確認しました。雨の日や夜なべ仕事に、老眼鏡をかけて、詳細な見積書を作製する棟梁の姿を想像すると、なんだか心が熱くなってきます。蛇足ながら、匠研究室での経験則では、良い仕事をする施工者ほど、見積書は詳細を極めるのが通例です。大雑把な見積書で、丁寧な仕事をした施工者を、今だに知らないのが事実です。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい