ハードとしての確実な家作り:実践編 

6. 木工事 その3

 上棟前にやっておける木工事は、もう少しあります。ただし、これから述べる仕事は、上棟後にやってもかまいません。事実、上棟前に忙しくて時間がない時は、上棟後になされることも、しばしばです。しかし上棟の時に、柱と一緒に組み込んでしまう<差し鴨居>という例があるように、造作材も作り方によっては構造材とすることも可能です。ですから、ここでは上棟前の仕事として述べておきます。

 造作材と言っても、木材に変わりはなく、材木屋から仕入れますが、例えば、鴨居や階段という形で売っているわけではありません。鴨居や敷居のように溝を持った断面の材は、大工が下小屋で加工しています。立体としての家が、棟梁の頭の中にイメージされているから、造作材の下ごしらえも可能なのです。おっつけ仕事ではなく、事前に計算して加工できる、日本の棟梁の素晴らしさはここにあります。

 造作とは何かとなると、正確に定義するのはなかなか難しくなります。ここでは、上棟した骨組みだけの家に、後から取り付ける部材だと考えて下さい。それは、まず屋根、軒先まわり、1・2二階の床でしょうか。(普通、ここまでは造作と呼ばないが、これ等も下小屋で準備される)次に、鴨居、長押、天井、額縁、階段、出窓、戸袋、床の間、板敷の床等々です。こうした材も、棟梁によって選ばれ、墨付けされます。造作材の加工は、刻みとは言わずに、下ごしらえと称します。

 造作材の材種や寸法は、造作材だけで決定されるのではなく、柱や構造材などとのつり合いを考えて、調和するように選定されます。太い柱の時は、造作材も大きいものが使用されます。3寸5分(105ミリ)の柱と4寸(120ミリ)の柱では、材積に換算すると、ほとんど値段は変わりません。ところが、それにとりつく造作材は、ほんの少しの寸法の違いでも、大変な金額の開きとなります。

 105ミリ角の柱を使った部屋を想定して下さい。鴨居の寸法をどれくらいにするか。考えはじめると、なかなか難しい問題です。まず、巾ですが、これは柱より広くては困ります。柱の面より狭い巾で納まるように決められています。こうした納まりを面内(めんうち)と呼んでいます。きわめてまれに、面の中間幅にとる仕事もあり、こちらは面中(めんなか)と呼んでいます。そして、厚さはどうするか。鴨居は、建具を走らせるための溝ですから、建具が走りさえすれば良いではないか、厚さなど些細なことと思うかも知れません。確かに実用上は、どんな寸法でも問題はありません。

 造作材のこうした寸法によって、部屋の雰囲気はガラリと変わります。ですから、部材寸法の決め方は、大工仕事のなかでも難しいものとされており、部屋の用途、広さ、天井の高さ、柱の寸法、材種、材料の規格寸法などによって、わずかながら変えています。微妙な寸法ぎめは、用途のためではなく、雰囲気に関係するため、センスが要求されます。建築主に、違和感を持たせるようでは失敗です。材木屋から仕入れた材の規格寸法を無視して決めてしまうと、用材上ひどく無駄がでてしまいます。また、規格にとらわれてしまうと、妙にギクシャクした部屋になってしまいます。大まかな規則はありますが、これでなければならないという公式的な一般解はありません。本当のところは、設計者や棟梁の美意識によって、決定されます。

 その中でも、ある法則はあります。大胆にいって、薄く仕立てる方が、粋好みの数寄屋仕事、厚くみせるのは重厚な寺院や書院造りの仕事といえるでしょうか。ちなみに、一般住宅の場合、匠研究室の標準仕様ですと、六畳間で鴨居の厚さは33ミリ(1寸1分)です。しかし、これが大広間ともなると、45ミリなどという厚い寸法も使用します。

 
鴨居の溝

 33ミリでも36ミリでも、大して違わないと思われるかも知れません。ところが、これが大いに違います。極論すると、たった3ミリの違いをずっと積み重ねていくことが、茶席になったり、書院になったり、という結果を生みだします。どんな部屋も、同じように柱と壁をもち、同じような建具が入っています。どんな和室も、同じ要素で構成されていますから、その雰囲気を決定する最も重要な一つは、部材寸法です。太い部材に囲まれると、ごつく、細い部材に囲まれると、華奢に感じます。月日がたつと材は黒ずんで、材種がわからなくなってきます。ですから、いつまでも変わらない材の寸法ぎめは、本当に大切です。

 幅と厚さが決まると、溝の寸法を決めます。関東地方で多く使用されているのは、障子では四・七と呼ばれる寸法で、溝幅が7分(21ミリ)溝と溝のあいだの島が4分(12ミリ)です。そこに、厚さ1寸(30ミリ)の障子が1分(3ミリ)間隔で建て込まれます。これが襖となると、三・七の溝で、島が1分(3ミリ)狭くなります。深さはともに5分(15ミリ)です。

 多くの設計者は、設計図のうえでここまで詳細には指定しませんが、匠研究室では必ず指定します。溝の中心を(つまり島の中心)を柱の中心にするか、建具の中心を柱の中心にするか、建具のシャクリ下げを室内側にするか否か、こうしたことを、家全体の雰囲気を作る方針のもとで、統一的に決めておくことは、室内の調和を計る上で、きわめて大切だからです。昔の棟梁たちは、こうした寸法に大変やかましく神経を使っていました。

 
敷居の納まり

 鴨居だけでは、建具は走りません。建具を下で受けるのは敷居です。敷居は、畳側が柱と同一面、廊下側は柱の面内仕上げとなるため、鴨居より若干広くなるのが普通です。ここでも、厚みは美意識の支配下にあります。見下ろす位置にある敷居は、見上げる鴨居より厚いほうが落ち着きますが、それでも36ミリとするか45ミリとするかでは、大分違います。(両側が畳であれば、敷居の厚さは判らない) 材の規格は四五ミリですから、それ以上には出来ませんが、削り込めばいくらでも薄くできます。厚いものを削ってしまうのはもったいない、という気持ちとの葛藤です。また、敷居は建具に走られて、減ってしまいますから、埋め樫(うめがし)といって、溝に桜や樫などの堅木を埋め込むときもあります。(敷居すべりを使うのは、安い仕事です。)また、敷居の溝は、浅ければ浅いほど、上手な仕事です。

 敷居と鴨居だけについて述べてきましたが、こうした下ごしらえは、どんな造作材にも必要です。構造材の決定には、耐力を満たせば良く、見え方は無視できましたが、造作材では、色や形、質感などいった計量化できない要素が多いため、棟梁と設計者のあいだで、話が食い違うと大変です。設計者は、できるだけよいものを作ろうとしますが、棟梁は予算に縛られて、そう気ままに高価な材料を使えません。ここでも、また設計者と棟梁のあいだで、綱引きが始まります。しかし、ここでは基礎の時と異なって、匠研究室としては割りと簡単に妥協します。手間を惜しんでいるのならば、妥協は一考を要しますが、材料の等級を落としたいという話であれば、家全体の中ではそう問題ではないからです。

 造作材は構造には無関係ですが、それでいて値段のはる木材です。造作材は、言わば見かけだけです。設計屋の感心は、どちらかというと、家全体の使い勝手や、室内空間の質のほうにに傾いているのにたいして、棟梁の感心は木と、木の仕事にあります。ですから、棟梁の木に対する目は、設計屋より厳しいのが普通です。そして、棟梁からこうした話が出るときは、その多くが非常識な提案ではありません。素人は、材料を落とすときくと、何かとんでもないことのように感じるかも知れません。しかし、棟梁は木の本職です。彼らの提案は、おおくは理に叶っています。たった一本の高額材(おどろおどろしい床柱など)を使用するよりは、全体の調子をそろえる方が、どれほど良いか判りません。しかも、部分にお金を張り込むのは簡単で、誰にもできますが、全体の調子を程よく整えるのは、大変な経験とセンスが必要なのです。

 家は全体です。与えられた総予算を、うまく配分するのも、棟梁や設計者の役割の一つです。そうはいっても、完成してしまえば、造作が最も目立ちます。素人の建築主に、隠れた大切な部分に沢山お金をかけたから、造作の仕様が充分ではなかったといっても、納得はしてもらえません。造作工事については、建方工事の後で、造作取り付け工事として、木工事その4として、もう一度詳細に述べるつもりです。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい