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ハードとしての確実な家作り:実践編 | |||||||||||||||||||||||||||||
ここまでの作業を終えると、下小屋から再び現場に戻ることになります。基礎の上に土台を敷きならべ、その上に柱などの木組をのせていきます。土台より上の骨組を組み立てるのは、建方工事と呼ばれます。また、この建方により屋根の頂上に棟木をのせるので、上棟とも呼びます。そして、上棟により家の形ができて、建築の一区切りがつきますので、上棟式という儀式をやるのが普通です。まだ木工事は続きますが、ここで建方工事に話を進めます。 7. 建て方工事 木材を加工するのは、大工の仕事でした。しかし、それを組み建てるのは、大工の仕事ではありません。ほんらいは、鳶の仕事です。現在では、建方に大工も参加する場合がふえましたが、昔の上棟には、大工は道具を持って行かなかったとか。これは、自分の仕事に間違いがない、という大変な自信です。それにしても、大工が加工した材を、別の職方である鳶が組み建てるのは、不思議な思いがします。 どのように加工したかは、木材を加工した本人が一番良く知っているはずです。ちょっと考えると、家のように複雑な物は、実際に自分の手を使った大工職人以外、組み建てることが出来ないように感じます。また、たとえ可能であっても、ひどく能率が悪いように思いがちです。ところが、刻み仕事も大勢の大工が、部分部分を担当しているにすぎず、上棟までの作業はシステム化され分業です。(木工事その2、絵図板・番付を参照)ですから、そのシステムを知っていれば、木材の加工方法を知らなくても、誰にでも家は上棟できるのです。 それにしても、建方に道具を持って行かない大工とは、何という自信なのでしょう。自分の刻んだ物に、間違いがあるはずがないという信念は、ただ驚きです。前述のように、棟梁は立体としての家を頭の中に描いていて、その構成部材として木材を加工させていました。ですから、全ての材を部品として用意することが可能でした。建方前の木材は、ちょうど、組み立てキットのように、全ての部品が完璧の状態でパックされていると、思っていただければ良いと思います。 穴の開け忘れ、ホゾ勝手の違いと言った些細な間違いから、部材寸法の間違い、部材の不足等などといったように、間違う可能性はたくさんあります。そうしたなかで、部材の不足などという重大な間違いは言うに及ばず、穴の開け忘れまで、一つの間違いもないと言うのは大した仕事です。しかし、最近は棟梁の質が落ちため、なかなかこうはいきません。建方をしている隣で、あわてて加工し直している風景も目にする昨今です。 建方は、土台の上に柱を建てることから始まります。墨付けの時に、この家はどの部分から建てるか、ということは当然考慮してあります。その順番を間違えると、立ち上がらなくなってしまうことすらあります。普通は、敷地の奥まった部分とか、一番面倒な箇所から建て始めます。 隣の柱と連結されないまま、柱を一本ずつ立てて、そのままにしておくと、倒れてしまいかねません。そこで、仮筋(かりすじ)といって、仮の筋違(筋違につては後述)を建物の室内側に、釘で固定しておきます。そして、次々と柱を立てながら、適宜なな分だけずつ、桁をのせて柱のてっぺんをつないでいきます。もうここまでくると、柱がどうとばかりに倒れることはありません。ぐらぐらと揺れはしますが、総持ちになった柱は、家の形を成して行きます。次々と柱が建ち並び、はや桁の上には、鳶の職人がのっています。 鳶と言うのは、何と身軽なのだろうと、いつも驚きます。5メートル近い空中の一本橋を歩くだけでも恐ろしいのに、その上で物を持ったり、作業をするのですから、大したものです。高所と言うのは、下からみるのと、上から見下ろすのでは大違い、空中にいると本当に高く感じます。 建方工事は、たくさんの人手が必要です。搬入する人、搬入された材を確認する人、建て方をする人、建て方の場所まで運ぶ人、建て方を手伝う人、上に上がる人などなど …。大手の建設会社だと、これに指図する人、偉い人、それを見物する人…。今日のように人件費が高くなると、大勢の人を何日も動員するわけにはいきません。ですから、短期決戦の一日勝負です。建て方は、大勢の人が集まり、家作りの最も華やかな一日です。 柱を建てては桁(二階建ての場合は胴差(どうさし)と呼ぶ)をのせ、柱を建てては桁をのせてという具合いに、建て方は進行していきます。最近は、平屋はあまりなく、ほとんど二階建てですから、柱というと通し柱があります。通し柱とは、一階と二階を通して一本の柱を使用することで、ほかの柱よりも太い4寸角(120ミリ角)のものを使います。通し柱は、一と二階を貫通しているので、間取りとの関連をもっています。ですから、どこにでも建てられるものではありません。多くは二階の四隅に使われます。(それが一階のどこに降りるか、設計時に検討すみ) 一階の格好が見える頃、昼食となるのが多いようです。昼休みも過ぎ、午後一番の仕事は、建て入りの確認といきたいところです。建て入りとは、垂直のことで、建て入りの確認とは、柱が垂直に建つようにすることです。仮設工事のところでふれた作業が、ここで行われます。多くは二階まで立ち上がってから、建て入りの確認をしているようですが、一階まで立ち上がったところでも、確認をしておくべきでしょう。というのは、たくさんの部材がつけばつくほど、家の歪みはなおしにくくなるからです。
上手に刻まれている場合は、ほとんど歪みはありません。また、仮筋に頼らなくても、柱は垂直に建っています。しかし、それでもやはり確認はすべきです。柱の倒れに対する匠研究室の許容誤差は、3メートルにたいして太い墨一本つまり1ミリです。鉄骨学会基準では H/2500+10もしくは5ミリ のどちらか小さい方となっています。いかに木造の家がデリケートだかおわかりでしょう。 歪んでいる場合は、ABをロープで結び、AB間の距離をつめます。すると、柱がおきて垂直になるという仕掛です。垂直が確認されると、今度はガッチリと筋違を釘で打っておきます。ただし、この筋違も仮のもので、本当の筋違は外壁を張るときに、柱や桁をかきこんで、柱の外側に取り付けます。本当の筋違を、どこにいれるかは、設計図にきちんと示されています。
二階部分を建てるには、足場がありません。普通、建方だけのために、足場をかくことはありません。足場はあくまで、鳶以外のためのものです。そこで、鳶は、通し柱の中間当りに、丸太を水平に縛りつけます。この丸太が、二階を建てる足場です。この上にのって、二階の柱を建て、桁をのせていきます。そして、桁と梁をからませて、家の形はほぼ全容を現してきます。その上に、小屋束をたてて母屋をのせ、屋根の形を作ります。 木組という言葉がありますが、ここまでは釘を使いません。仮筋は釘打ちですが、これはあとで外してしまうものです。ですから、家の構造を支える土台や柱や桁、梁には、今でも釘は使用していません。建方工事の最中に、釘を使用することは、かえって能率が悪いのです。どんなに安価な家でも、ここまでは釘を使用することはなく、木と木を組んで建てていきます。ここで再度、柱の建て入りを確認します。一階の時と同じ要領です。 屋根下地を作る段になると、釘は大々的に登場してきます。屋根下地の下地、つまり垂木(たるき)を母屋(もや)に釘で固定します。垂木とは、屋根の流れに平行におく39×45程度の部材で、野地板(屋根下地板のこと)を受ける材料です。だいたい36〜45センチの間隔で、母屋の上に配置されます。かつては、杉材が多かったのですが、最近では、外国産のツガ材に変わっています。(ツガは安いから使用されているのだが、むしろ堅く、釘のききがよい)
垂木への釘打ちですが、両わきから斜めに2寸5分(75ミリ)の釘を二本ずつ打ちます。こうすると、屋根が風で下からあおられた場合、たんに釘の引き抜き抵抗だけで抗するのではなく、二本が一緒に働いて、有効な釘のききかたとなります。しかも、そのうえにのせる野地板を止める釘が、垂木を止める釘の頭に、ぶつからなくてうまい具合いです。 垂木の上に、野地板といって、屋根下地になる板を並べます。この板も、釘打ちですが、ちょっとした配慮をします。屋根はいつも上からの力が、かかっているとばかりは限りません。下から風が吹くと、屋根を持ち上げるような力が発生します。これに抵抗するのは、釘の引き抜き抵抗しかありません。そこで、図のようにハの字のように釘を打って、釘二本の力をも活用しようというわけです。野地板にラワン合板を使っても、釘は平行には打たず、あちらこちら勝手な向きに釘を打つと、板がはがれにくくなります。野地板を止める釘は、1寸5分(45ミリ)です。
野地板は多く、杉や松の四分厚(12ミリ)の板を使っていましたが、最近ではラワン合板(コンパネ)が多く使われます。杉や松の板が、坪当り2、000〜2、500円であるのに対して、ラワン合板は坪当り2、600円(2枚で1坪)くらいです。ラワン合板の方が幅広ですから、作業性がよく、しかも狂いも少ないので、結局は幾らか安いということになります。とくに、金属で葺く屋根の下地には、ラワン合板が平滑なために好んで使われます。 野地板が打ち終わる頃には、日も西に傾き、そろそろ作業終了の時刻です。手順よく進んだ現場では、骨組みが立ち上がった家の回りに、足場がかけられているかも知れません。上棟のあと、骨組みとしての家に、様々なものを取り付けて行きますが、何をやるにしても、まず足場が必要です。家の回りに、外足場なる仮設工事が、建方と同時平行で進行すれば、鳶は明日また来る必要がなくなります。野地板打ちは大工にまかせて、鳶は足場かきに余念がないというのが昨今でしょうか。棟梁から一式幾らで請け負っている鳶としては、一日でも出面(でずら)を減らして、経費の節減につとめたいところでしょう。 読者諸子も、むかしは屋根の上に五色の布をつけた幣串(へいぐし)が立ち、右左に弓矢(男矢、女矢の一対)をつけた棟飾りのにぎにぎしい、上棟式があったことを記憶しているとおもいます。木遣り(きやり)をうたっての曵綱(ひきつな)、槌打ち(つちうち)、弓引き(ゆみひき)と式は続き、投げ餅、投げ銭で終わる上棟式には、学校が終わるのももどかしく、参集した思い出があるかも知れません。屋根の上からまかれるお餅を、夢中で拾ったものでしょう。 祭壇には、海の幸、山の幸が並び、直衣(のうし)や烏帽子(えぼし)、直垂(ひたたれ)姿に身を正した棟梁の、晴の日です。酒がふるまわれて、心付けがでて職人にはうれしい日です。一生に一度の大盤振舞い、建築主の散財も大変でした。上棟式は、家を建てることが大事業だった時代の、近所隣総出の大イベントでした。 上棟式が終わり、宴もはてると、現場から棟梁の家まで、<棟梁送り>と称して、行列です。幣串を先頭に木遣りをうたいながら、ゆっくりと進みます。各町内が町鳶(まちとび)によって、仕切られていた時代です。その上棟式を取り仕切った鳶が、通過する町内の鳶に渡りをつけて、行列は各町内を進みます。もちろん、渡りと称する挨拶をしないと、棟梁送りの列に嫌がらせされたり、ひどい場合には通らしてくれませんでした。まるでヤクザの世界です。戦後までは、どこにもあったこうしたしきたりを思い出すと、建築界の尻尾にはヤクザの臭いがぬけきってないと、つくずく思い至る気がします。建築界とは、なんと封建的な世界だったのでしょう。
今日では、何でも儀式が簡素化しています。上棟式も同様です。旧来の上棟式は、神社やお寺に残っていますが、民家ではもう形だけです。本来、上棟式は天や地の神に、無事に上棟できたことを感謝して、当家の繁栄を願うものでした。ですから、建築主も気をいれてやったものでした。しかし、今日では、単に職人衆の慰労会になっています。 今日のように、手軽に家が建てられるようになると、大きな工務店では、毎月上棟式があることすらあります。以前のような村的な人間関係の中でなら、上棟式を盛大にやる意味もあったでしょうが、今日ではもはや、あまり派手な上棟式は考えものです。しかし、軽くなったといっても、自分の家を建てた喜びを、誰かと分かちあいたいというのも、自然の人情でしょう。昔流のやり方もどうも、さりとて上棟式をまったくやらないのも寂しいものです。そう考えると、今のような慰労会形式が、落ち着くところなのでしょうか。 昔は、上棟式の翌日は休みでした。職人にとって、上棟式翌日の休みは、例外的なうれしい休み(昔は、毎月1日と15日だけが休日だった)でした。しかし、今では上棟式が年に何度もあり、また、職人たちも週休になっているので、翌日が休みということはありません。 上棟式の翌日、まず屋根の区切りをつけることから、仕事は始まります。上棟式の当日は、野地板も屋根の中心部だけ葺いておきました。周辺部は、細かい仕事が必要ですから、忙しい建方工事の最中には、落ち着いて仕事ができないのです。そこで、残してあった周辺部から、仕事は始まるという次第です。
垂木の鼻先を切りそろえ、鼻隠し(はなかくし)を打ちつけます。ここでは、墨壷が大活躍です。垂木に切り墨をしるすには、鉛筆では駄目で、墨壷が便利です。 屋根の流れ尻(B部分)では、鼻隠しと呼んでいたものが、妻側(A部分)へくると、破不板(はふいた、破風板ともかく)と名前を変えます。(同じ材料でも、使う場所が違うと、名称が変わる。)そして、鼻隠しから、軒裏へと連なります。軒天井と呼ばれるこの部分は、防火上の理由から、今日ではモルタル(砂とセメントを水で練ったもの)で塗り込めてしまいます。そのうえ、野地板は瓦などに隠れて、見えなくなってしまいますから、このあたりは大工仕事でも、荒仕事の部類に入ります。ですから、今日ではもっぱら、電気ノコギリ(丸ノコ)が活躍する領域です。周辺部の処理が終わると、野地板もすべて張り上がり、屋根屋の登場を待ちます。 屋根の形は、外観に重要な影響をもっていますから、古来から様々に言われてきました。いわく、小さな屋根は急勾配が美しく、大きな屋根は緩勾配が美しい。いわく、屋根はゆったり、おおらかにつくれ。また、屋根は遠目でみるものですから、細かい寸法の違いには寛容で、3分(9ミリ)の違いは違いにあらず、というくらいに大まかな仕事がなされます。もちろん、これは無神経な仕事を勧めているわけではなく、全体のバランスが大切だ、といっているわけではあります。いずれにしても、屋根に対しては、近視眼的な見方は慎むべきでしょう。大まかにいって、雨対策だけを考えれば、急勾配ほど有利で、単純な形ほど漏水の事故は少なくなります。 これ以降、現場には、様々な職種が登場します。そして、木工事が中心となりながら、ほかの職種と並行して工事は進んで行きます。屋根の次は、外壁、床となりますが、そこを施工するには、水道屋、電気屋といった設備の工事が、先行しなければなりません。こうした各職方の、工事進行具合いを一覧表にしたものがあります。工程表といって種の工事予定表です。めんどうがって、工程表を書かない棟梁が多いのですが、工程表は建築主や監理者のためにだけではなく、各工事を担当する職方のためにもつくった方が良いのです。工事の進行と同時進行で、様々な職種の工事を絡ませながら、話を進めていきましょう。
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| 「タクミ ホームズ」も参照下さい | ||||||||||||||||||||||||||||||