著者の略歴−職人資格を持つ電気工(母親によれば、彼女が最初に覚えた言葉は「明かり」だったとか)。長年労働運動にも携わっており、全米女性職人の草の根組織である「トレードウイメンINC.」の創立者の一人で、現在同組織の顧問、また同名の季刊誌の編集者も努めた。権利平等委員会、女性職人見習い研修の常任顧問でもある。 最近ではわが国でも、 溶接工をめざす渡辺ちとせや岩崎雅子、 木型製作の松本美香、 ろう付け工の芦沢京美など、 いままで男性の領域だと思われていた技術者の世界へ、女性が入り始めた(日経新聞から)。 また、大型車の運転手にも、女性がつくようになった。 しかし、まだまだ少ない。 1988年、アメリカが不景気のどん底にいたときに、本書は出版された。 本書の出版は、1960〜70年代の女性運動が、不景気にもめげず活発に活動をする一つの表現でもあった。 1960〜70年代には、すでに女性の選挙権は確立されていた。 当時の女性運動が求めたものは、まず、就職における男女の平等だった。 家庭での家事や育児が、女性の仕事として割り振られていたが、それらには労働の手応えがない。 人間が成長するという、労働を通して得られるものが、家事労働にはない。 しかも、家事労働は女性だけに押しつけられている。 女性である自分たちも、職業労働に従事したい。 女性たちがそういったとき、職業は彼女たちに門戸を開いてはいなかった。 そこで彼女たちは職業獲得をめざして立ち上がったのである。 それがフェミニズムと呼ばれる運動である。 家事労働の見直しからフェミニズムが出発したのではないのは、どんなに強調しても強調しすぎということはない。
女性の仕事というと、わが国では事務職を想像し、肉体労働や技術者を思い浮かべることは少ない。 大卒女性の職業選択は、いわゆるホワイトカラーだけである。 しかし、本書はヘルメットをかぶるような仕事、つまり肉体労働や技術者をえらんだ女性たちの体験記である。 地下鉄車掌−マリアン・スワードロウ 警察官−ローズ・メレンデス 建築現場監督−二―ナ・ソルトマン 精密機械工−ホアニータ・サンチェス 建設機械繰縦士−グロリア・ネルソン 変電所操作員−ルーシー・リム 板金工−ベス・ジラギ 炭鉱作業員−ジョニ・ジェームズ 溶接工−メアリー・ルジエロ 大工−パット・カル 設備工−ジエシカ・ホプキンス 電気工−スーザン・アイゼンパーク 消防士−テレーズ・M・フローレン いずれの職業も、男性の匂いがぷんぷんしてくる。 わが国の建築現場には、女性もずいぶんと入ってきた。 しかし、多くは設計者やインテリア・コーディネーターとしてであって、現場労働者としてではない。 設計者たちは現場の人間にとっては、いわばよそ者である。 彼等は一時的に訪れる訪問者に過ぎない。 しかし、現場監督は違う。 現場監督は、職人たちと一緒に現場に常駐する。 女性が現場監督になるうえで、問題はトイレだった。 それが環境問題でトイレの設置がうるさくなり、どこの現場でもトイレはある。 もはや女性の参入には、足枷はずっと少なくなった。 今日ではまだまだ少ないが、女性の現場監督も見かけるようになった。 今後、肉体労働の領域は、機械に代替されて減っていくだろう。 しかし、現場がある限り、肉体労働が絶無になることはあり得ない。 むしろ、現場にも情報社会化が押し寄せ、経験から学ぶという昔風の職人では勤まらなくなる。 肉体労働にも頭脳労働の要素が、不可欠になってくる。 複雑な機械の使い方を理解する知力が必要となる。 そこでは女性の非力さは、それほど問題にはならなくなる。 大卒女性も現場での労働を選択して欲しいものだ。 肉体労働の比重は下がり、賃金は相対的に下がるかもしれない。 しかし、肉体労働者は減るはずだから、けっして安月給ではないはずである。 肉体労働は時間給でしかないから、飛び抜けた高級になることはないが、今後はむしろ情報産業の従事者より、良い給料になるかもしれない。 職業を閉鎖的にせず、業種間の移動を容易にして欲しい。 肉体労働者にも頭脳労働のチャンスを、また頭脳労働者にも肉体労働のチャンスを与えて欲しい。 そして理想をいわせてもらえば、頭脳労働と肉体労働の区別をなくし、 自由な職業選択ができるようにしたいものである。 アメリカでそれが実現しておりながら、わが国ではなぜ困難なのか、本当に疑問である。 本書の最後には、ハンディー・ウーマンを主宰する「建築現場の女性ネットワーク」代表の萩原みどり氏が、 自分の体験を交えながら、女性の労働とわが国の労働の現場について書いている。 女性の現場進出は、ぜひ応援したい。 ハンディー・ウーマン 埼玉県入間市黒須1−10−32 建築現場の女性ネットワーク事務局 千葉県鎌ヶ谷市東鎌ヶ谷2−15−18 参考: 菊池比佐乃「女職人カタログ:伝統工芸就職紀行」パルコ出版、1995
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