著者の略歴−1952年名古屋市生まれ。東京大学卒業。大阪大学大学院修士課程修了。スウェーデン国立犯罪防止委員会客員研究員、南イリノイ大学フルブライト研究員を経て、現在、金城学院大学現代文化学部教授。専攻は犯罪学、逸脱行動論、社会問題研究。おもな著書に「少年非行の社会学」(世界思想社)、「犯罪学入門−殺人・賄賂・非行」(講談社現代新書)がある。 凶悪な事件がおきると、誰しも不安にある。 とりわけそれが想像もしなかった場合は、混乱に陥り世間の声に流されやすい。 世間の声は、誰かによって操作されていることはないだろうか。
少年と呼ばれる人たちによって起こされる事件が増えたといわれる。 とりわけ14才の少年がおこした神戸の事件は衝撃的だった。 こうした事件が起きると決まって、犯罪の低年齢化とか、少年犯罪の凶悪化といったキャンペーンが続く。 マスコミに表れる風潮は、もちろん警察の発表にもとづいている。 わが国のマスコミは各官庁に記者クラブをもっており、 警察とはいわば持ちつ持たれつの関係にある。 彼らが独自の価値観に基づいて報道しているとは思えない。 最近、その例外として長野県が、記者クラブを廃止したニュースが伝えられた。 これでマスコミはどうなるのだろうか。 独自の視点を持って欲しいものだ。 本書はきわめて冷静に、少年犯罪の内実を見る。 統計はその基準の設定次第で大きく変わる。 従来、検察庁は被害者のみの証言によっては公訴を提起することはなかった。しかしドメスティック・バイオレンス、セクシヤル・ハラスメントなど女性に対して被害をおよぼす暴力や性的逸脱行動に対して強い制裁を求めるクレイムの高まりに応じて、検察庁が方針を変更したために、厳しい対応がとられるようになった。 このように世論あるいはそれに支えられたキャンペーンによって逸脱行為に対する取締りが強化され、より重い刑罰の定められた法律が適用されて厳しく処罰されるということは起こりうるし、実際に起こっているのである。P38 過激派学生たちを完全に封じ込めた体制側は、 女性と少年への問題を梃子にして、ファッシズムへの道を踏みだしたと言っても良いだろう。 世論が要求するから警察はそれに応えるのだ。 それが近代的なスマートなやり方で、もはや戦前型の暴力的な取締りはない。 しかし、そこには反対する自由はなく、真綿で首を絞められるように、人間の自由は窒息させられていく。 個人の自由こそ、何としても確立しなければならないが、地獄への道は善意に先導されているのか。 工業社会から情報社会化への転化がもたらしたものは、 性別による役割分担の否定と年齢秩序の崩壊である。 前者が女性の声に後押しされ、後者が少年犯罪への危惧に対応している。 いずれも、初めて体験することへの恐怖にもとづき、大衆が要求している規制である。 本書の筆者は次のように言う。 戦後少年法が定められた当時の少年たちは貧しさゆえに犯罪を行っていたのであり、それは生活のための犯罪であった。(中略)しかし当時の状況を直接に観察していた家庭裁判所判事は、当時としても生活するための食料とはいえないサイダーを飲むために強盗致傷をはたらいた少年を「ありふれた例」として描いている。少年院に勤務する犯罪精神医学者である樋口は、たとえ食料が狙われたとしても、それは現金に換えやすいからであり、換金したのちに遊興費あるいは小遣いとして使われるとしている。さらに「スリル」を求めて行ういわば「遊び型」犯罪さえ少年たちによって行われていると述べる。P125 昭和38年までは「上流」「中流」「下流」「極貧」が選択肢であったのが、昭和39年には「富裕」「普通」「貧困」「被保護」と分類項目が変化した。そのため、従来であれば「下流」に○が付けられたものが、新分類では「貧困」とまではいかないため「普通」に○が付けられたことによると推定されるのである。P135 20世紀最後の10年。日本における少年による殺人事件の検挙人員は増加しなかった。 先に述べたように、1960年ころに年間400件を数えたが、1970年に200件となり、1975年以降約100件で推移している。とりわけ少年非行が戦後最悪といわれた第三のピークの昭和58年(1983)は、検挙人員は50人で戦後最低であった。P156 情報社会化すれば、肉体から頭脳へと社会の価値が移る。 それに伴って犯罪も、肉体型から頭脳型へと移るのは自明である。 殺人事件は減っている。 にもかかわらず、数少ない例外的な事件を、とりわけ猟奇的に扱って、社会不安を増大させているのはマスコミである。 少年法の改正はすべきではなく、<子供の権利条約>にしたがって、少年にはより一層の教育刑でのぞむべきである。 産湯と一緒に、赤ちゃんまで捨ててはいけない。 参考: エリオット・レイトン 「親を殺した子供たち」草思社、1997 フィリップ・アリエス 「子供の誕生」みすず書房、1980 本田和子 「異文化としての子供」ちくま学芸文庫、1992 山崎哲 「 物語:日本近代殺人史」春秋社、2000 青柳文雄「日本人の犯罪意識」中公文庫、1986 布施英利「禁じられた死体の世界:解剖学教室でぼくが出会ったもの」青春文庫、1997 芦沢常行「変死体は語る」二見書房、1996 椎名篤子「親になるほど難しいことはない 子ども虐待の真実」集英社文庫、1993
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