H邸の新築工事                
第 13 回   8月9日記  解体工事とは−手毀しのワザか

解体作業がすすむ
 
     
 警察官騒動もたいしたことなく、解体工事は順調に進みはじめた。人力で毀すのは、やはり時間がかかる。毎日8〜9人の職人が立ち働いているが、目に見えて毀されていくという感じではない。少しずつ、少しずつ、建物が形を失っていく。機械が掴むのと違って、建物がたったまま毀されていく。
 壁が残った形で毀されていく

 機械毀しだと、柱も梁もぎゅっと一掴みにされて、途中からちぎれてしまうが、人間の力はわずかなものだ。小さな部品へと、少しずつしか壊せない。だから、壁も柱もたったまま残っている。翌日は、また次の柱壁が取り除かれる。右上の写真は、2階部分が毀されたあとで、周囲がシートで囲われているのがわかる。

 この家は、民家と違って土壁ではなかった。石膏ボードが普及してから、建築されたのである。壁を毀すのも土埃がでなかった。土壁を毀すのは埃との格闘で、水をまきながら解体を勧めるが、それでも砂埃が舞い上がる。しかも、水にぬれた土埃は、ぬるぬるとして実に始末が悪い。

 土壁と石膏ボード下地の壁では、家にたいする考え方が違っている。土壁では壁に構造的な耐力が期待できないので、すべてを柱と梁が受けもつ。必然的に柱と梁が太くなり、壁に塗り込められる貫(ぬき)も太くなる。余談ながら、土壁の時代には、2階建てを建築するのは困難だった。石膏ボードが普及してから、庶民の家も安心して2階建てが建築できるようになった。

 月曜日から始まった解体工事も、金曜日頃には上物はほぼ姿を消していた。すでに柱も壁もなくなっていたし、細々とした残骸がうずたかく積み上げられていた。やはり手毀しはきれいだし、静かである。埃もでない。大きな家に、人間が蟻のようにたかって、少しずつ毀していく。工事費の大部分が人件費とはいえ、毀すのにもお金がかかるわけである。

 上部が毀されると、いよいよ基礎に手がつく。コンクリート製の基礎は、さすがに手毀しというわけにはいかかない。小さな機械が現場に搬入された。軽自動車の荷台にでも載りそうな小さな重機は、それでも人間よりはるかに力持ちである。コンクリートの基礎をつまんで、軽々とつぶしていく。小さくしたコンクリートの固まりを、1輪車に積んで、または人間が肩に背負って運んでいく。
 中央はアンカーボルト

 昭和40年頃に建築された家は、どこでもこの程度の基礎だったのだろう。アンカーボルトこそ使われているが、鉄筋はほとんど入っていない。これでは地盤の沈下に耐えられるはずがない。コンクリートは上からの力には強いが、曲げる力には至って意気地がない。だから鉄筋の入っていないコンクリートは、地面が沈下すれば、簡単にぽきっと折れてしまう。この家がその典型例である。

 鉄筋が曲げに抵抗し、コンクリートが圧縮に抵抗する。鉄筋コンクリ−トというように、両方がそれぞれ長所・短所を補い合って、鉄筋コンクリートは大きな抵抗力を発揮する。鉄筋の入っていないコンクリート基礎を毀すのは、いとも簡単であるが、鉄筋が入っていると毀す手間は2倍以上になる。解体業者は鉄筋が入っていると読んで、見積もったのだろうか。

 週が開けて、29日の月曜日。工事は予定より早く進んでおり、今週一杯はかからないようだ。あと1〜2日で終わると思っていたら、コンクリート製の巨大な浄化槽がでてきた。長さ4メートル、幅2メートル、深さ1.5メートルという浄化槽は、幸いなことに鉄筋が入っていなかった。重機がコンクリートをつまんで、握りつぶしていく。これは見積範囲外であるが、追加の支払いはしないと言ってある。施工者は仕方なしに納得する。

 解体工事は見積が難しい。地中埋設物は予想がつかない。今回の浄化槽はまだ小さな物だ。文化財などがでてきたら、工事は中止である。そのときの施工費はどう精算するのだろうか。匠研究室では、まだそうした例は体験していないが、おそらく揉めることだろう。解体工事は、7月31日の水曜日に終了した。

 今回の解体工事費が、¥1、361、200−だとは記している。その内訳は下記の通りである。

数量 単価 金額 備考
解体工事 29坪 23、000 667、000 手毀し
養生シート 252u 600 151、200 足場丸太とも
太陽熱温水器処分 1式
25、000
発生材処分費 52u 6、500 338、000 中間処分場まで
搬出小運搬 1式
180、000 人力による
小計

1、361、200
消費税 5%
68、060
合計

1、429、260
匠研究室監理費 3%
42、877

 この金額を高いと見るか、安いと見るかは、人それぞれだろう。しかし、8〜9人の成人男性が、実働8日間の労働である。しかも、発生した残材は、捨てるにもお金がかかる。中間処分場では、2トン積みのトラック1台で、約4〜5万円を払わないと、引き取ってはくれない。この費用ももちろん、最終消費者つまり建築主が負担するのである。

 匠研究室では、監理費として解体工事にたいして、工事費の3%つまり¥42、877−を頂いた。

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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