H邸の新築工事                
第 18 回   9月7日記  敷地境界問題−所有権境と建築の敷地境界は違うが

敷地境界問題
 

 基礎工事の最中から、H邸の敷地が道路に接する部分で、境界問題が起きていた。当初AとBのあいだの長さは、2.04メートルだとして、建築確認を出していた。

 Aのほうは、ブロック塀でZ邸と境ができているので、ブロック塀の中心が敷地境界ということで問題はなかった。しかし、L邸のほうは擁壁であり、擁壁の根元とするには疑義があった。Hさんによれば、この擁壁が一度崩れ、積み直したときにHさんのほうへはみ出したというのだ。Hさんから提示された図面には、確かに1.2間と書いてある。

 この図面は尺貫法で書かれてはいるが、昭和40年にこの敷地を買ったときのもので、法務局に登記された正式のものである。1.2間をメートルに直せば、2.18メートルになる。そのため、擁壁の角ではなく、すこしL邸側によった位置を、敷地境界として建築確認をだした。ここには境界を示すものは何もない。すると、役所は目印になるように、鋲を打てといってきた。

 そこでHさんと相談の上、2.04メートルの位置に鋲を打ったのである。接道義務の2メートルを超えているので、これで建築確認はおりた。しかし、これを見た南隣のLさんが、境界が違うと言って役所に電話をかけたのである。建築指導課から匠研究室に電話が入り、隣地所有者からクレームが付いたので、境界確定をせよといってきた。

 そこで、すでに取得している建築確認で基礎工事は進めながら、敷地境界のための調査を始めた。するといろいろなことが判ってきた。ほんらい1.2間つまり2.18メートルあったHさんの敷地が、いつの間にか1.85メートルしかなくなっていた。その時期は、かつて私道だった道路が市道に移管された平成7年だった。

 私道が市道になるとき、測量が行われた。暢気なHさんは、道が整備され市が管理してくれるならと、測量図をよく確かめもせずに、私道を市に寄付することに同意してしまったのである。その測量図には、AとBのあいだが1.85メートルと記されていた。その時のまとめ役がLさんだったので、Lさんは良く覚えており、Lさんは1.85メートルのところが敷地境界だという。

 Hさんは市に私道分を寄付することには同意した覚えがあったが、AB間の距離が1.85メートルだと言うことは寝耳に水である。いささか迂闊なHさんだが、確かにおかしいことがいろいろある。

 HさんとLさんのもう一方の境界点であるEは、右上の図のようになっている。境界石は大谷石とブロック積みの下に、半分が隠れるようになっており、ずいぶんと古いものだと見える。この境界石に関しては、去年隣接地が売買され、そのときに4者が確認しているので、この境界石は信頼して良いと思う。

 敷地境界石の上に立って、HさんとLさんの敷地の境界をにらんでみると、Lさんの擁壁が敷地境界いっぱいに造られており、一部はHさん側に出ているようにさえ見える。擁壁は表面はコンクリートのように見える。しかし、崩れた時に塗り増ししたものだというのが、Hさんの主張である。たしかに本職が作ったにしてはお粗末で、表面がうねうねと凸凹である。

 擁壁は地上に見える部分だけではない。地面の中にも、地上部分を支える基礎が造られている。そのため、通常は基礎の突端が隣地境界となり、擁壁の根元には上の敷地の持ち主の土地が、何センチかあるのが普通である。右下の図で見れば、実践が敷地境界ではなく、一点鎖線が敷地境界になるはずである。擁壁の根元を掘ってみると、基礎がHさんの敷地に、約15センチほど突出している。

 こうした事情を調べ上げて、Lさんに敷地境界確認の立ち会いをお願いした。8月21日の水曜日にLさん宅へお邪魔し、ご都合を聞いたところ、立会日は8月26日(月)の午後2時ということになった。しかし、24日の土曜日になって、都合により2〜3週間延期するというファックスが入った。

 すでに基礎も完成し、あとは上棟を待つばかりになっている。しかし役所からは、接道が2メートルとれていないのだから、このまま建築することは認めないといわれる。26日に境界確認をして、2メートルの幅員を確保し建築確認の有効性を確かめて、8月30日に上棟しようとしていた予定は、全面的に見直しになった。

 すでに住まいは解体し、仮住まいになっているHさんに、選択肢は次の2つである。
1.境界はあくまで確認申請の通りだとして、強行突破をはかる。
2.建築基準法第43条第1項ただし書きに基づいて、許可申請をする。


 前者を選択すると、役所は現地に境界標を明示し、その図面を提出せよという。所有権の境である敷地境界と、建築確認上の敷地境界は関係ない。だから世間では、隣地を借地したりして、建坪率や容積率を逃げたりもする。しかし、強行突破することは、訴訟にもなりかねない。もし訴訟にでもなり、解決に長時間かかるようだと、仮住まいのHさんには大変な痛手である。

 後者を選択すると、一度とった建築確認をご破算にし、建築許可をとり、つぎに再度の建築確認をとる。第43条第1項ただし書きとは、建て替えの場合に限って、接道が1.80メートル以上あれば、建築を認めるという規定である。今回、役所の担当者Xさんは若いが、大変に親切な人で、親身になって心配してくれた。強行突破は、役所とも緊張関係になるし、仮住まいのHさんにとって危険が大きすぎる。

 8月26日に、Hさんご夫妻、匠研究室、それに施工をしている東生建設の社長と現場監督が集まって、今後の対策を相談した。結局、不確定要素が多い前者ではなく、後者を選択することになった。そして、30日に予定した上棟は、延期である。この延期で工期が伸びるのを心配したが、施工者は1週間程度ならなんとかなるという。

 翌27日いっぱいかかって、許可申請書を作成する。そして、28日の朝一番で、役所に出しに行く。許可申請には、申請手数料が¥33、000−かかる。担当のXさんは、Hさんが仮住まいだという事情を知っているだけに、超特急でやるといってくれた。30日の金曜日に補正にいって、翌週の9月3日の火曜日に許可がおりた。

 その間、確認申請の準備を進める。水道局の同意もとり、いつでも申請が出せるようにしておく。9月3日に許可がでたという電話だが、担当のXさんが午後は不在なので、4日の朝一番でに確認申請を出す。今度は本当に超特急でやってくれた。なんと中1日、6日の金曜日には確認がおりたのである。

 担当のXさんからは、事前着工は窘められていたが、じつは工期の都合もあり、許可が下りた時点で6日の上棟を予定していた。確認の取得が辛うじて上棟には間に合った。いくら超特急といっても、確認がおりるのは月曜日になるかも知れないと恐れていただけに、間に合ってほんとうに良かった。

 ということで、次回はやっとたどり着いた上棟の報告である。
「タクミ ホームズ」も参照下さい
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