H邸の新築工事                
第 19 回   9月11日記  上棟になった−骨組を立ち上げること

上棟になった
 

 木造建築において、上棟は大きな意味をもつ。上棟とは棟を上げると書くように、棟木つまり屋根の一番高いところに水平にのる材料を納めることである。しかも、この日までは基礎工事といって、土の上しかいじらなかったものが、地上に家の形を表すのである。多くはこの日に、上棟式なるものを挙行する。

 大きな家や社寺仏閣になると、骨組は一日では組上がらないので、上棟式の前から作業を始める。そして、良い日を選んで、棟木を納めるのである。社寺建築では上棟というと、棟木を納めることをのぞいて、当日は何も作業をしないことが多い。前日までにほとんどの作業が終わっているのだ。しかし、普通の家では、朝からたちあげ始め、夕方には棟木が納める。

 祝儀としての上棟の名残があるので、普通の民家でも上棟は吉日を選んで行われることが多い。H邸でも、9月6日の大安を選んで、上棟が行われた。上棟には多くの人手が必要である。材料を選ぶ人、材料を運ぶ人、組み上げる人、全体を指示する人などなど、何かと騒がしいのが上棟の当日である。
 上棟の翌日に撮った写真

 今ではほとんどの住宅が、プレカットといって工場で骨組みを加工してくる。人間の仕事にはばらつきがあるが、機械仕事にはばらつきがきわめて少ない。かつては大工さんが刻んだ仕事も、今ではコンピューター付きの工作機械が仕上げてくれる。だから、ほとんど間違いがないし、組み上げるもの順調にいく。

 プレカットの費用   ¥8,000〜8,500/坪 

 現在のプレカット代は、材料共で上記の値段が相場である。かつて大工さんが加工していたときは、上棟までの作業費は坪当たり1人工といわれていた。つまり1人の大工の1日の作業量だった。だから金額になおすと日当分、¥20,000を少し出るくらいということになる。それが上記の金額だから、プレカットが劇的に安いのが判るだろう。そこで上棟である。

 しかし、9月6日は朝から雨だった。基礎のコンクリートの時にも、台風で朝から雨だった。あのときは順延したが、今回はプレカット工場が北関東にあり、材料は早朝に工場をでる。だから現場には材料が到着している。そのために順延はできない。少なくとも材料は、運び込まなければならない。カッパを着て雨の中の材料運びが始まった。

 雨のために作業を中止するか、続行するか。こうしたときの判断は非常に難しい。雨の中を強行すれば、怪我をする確率が高くなるし、材料も汚れる。作業を中止すれば、職人の手間が無駄になる。大勢の職人を集めているので、すぐに20万円以上がフイになる。上に立つ者=棟梁もしくは現場監督は、厳しい選択を迫られる。

 雨足が強くなれば、中止するという予定で作業を続ける。雨は降り続いていたが、午後2時頃まで作業が続く。棟木は上がらなかったが、今日の上棟は完了したことにして、酒、塩、米を建物の四方にまいて、簡単な儀式を行った。ビニールを張ったしたで、奉献酒を酌み交わして乾杯する。職人衆にはHさんから祝儀がでた。

 追記:台風などで朝から風雨が強い時は作業を中止するが、それでも柱を1本だけ建てて、その日に上棟したことにするのが慣習である。上棟には吉日を選んでいるし、準備が多く、多くの人が集まるので、日をずらすことができないのである。そのため、柱を1本だけ立てるという<見なし儀式>が行われる。
「タクミ ホームズ」も参照下さい
「建築への招待」へ戻る        次回に進む