H邸の新築工事                 
第 2 回   7月19日記  匠研究室に設計依頼が来るまで−その2

第2回目の訪問      5月3日(金) 晴れ
 擁壁の現状は何とか安定しているが、地盤の沈下はおおうべくもない。しかも、基礎下の土が流れていることは、大きな不安材料である。現状のままというのは、誰でも気味が悪い。状況を改善したほうが良いのは自明である。

 具体策を検討するにあたっては、何を優先すべきだろうか。Hさんの財政事情はまだ聞いてはいないが、誰だって少ない費用に越したことはないだろう。なにをするにも厳しい敷地だが、現状の家に手を付けるのは最小限にしたい。しかし、土をいじるのはお金がかかるから、ある程度の出費はやむを得ない。やはり擁壁を造りなおすしか手はないだろうか。

 盛り土の上に建った2階建ての部分が、不同沈下していると同時に、北側の擁壁を押していると思われる。大谷石の部分はともかく、ブロック積みの部分は不安定だ。そこでまず、危険な状態になっている2階部分を、1階部分を含めて取り壊す。これは仕方ないであろう。

 そして、毀した部分に空き地ができるので、それを利用して擁壁を造りなおす。そのあとで、2階はあきらめて、1階部分のみ復元する。2階建ても可能ではあるが、基礎は深くせざるを得ない。地盤の安全を考えれば、ここまでは自然に話がすすむ。

 この日の段階では対処療法的に、危険になっている部分を直すつもりだった。おそらくそれが最も安価であろう。そう考えて、撤去・復元で考えた案を持参した。これでも1千万円以上はかかるが、安全策だからしかたない。

 安全にはなるが家の使い勝手は何も向上しない。なんだかばかばかしい気がしてもいた。しかも、家が小さくなってしまうので、現在と同じように使うとすれば、どこかに増築が必要である。北側の擁壁近くには、2階が建築できないとすれば、南側のうえに2階を増築するのだろうか。しかし、古い部分に継ぎ足すかたちでの増築は、計画がうまくいくとは限らない。古い部分の間取りに拘束されて、使い勝手が悪くなってしまうかも知れない。

 昭和40年に新築されたこの家は、すでに40年近く住み続けられてきた。この古い家を改修して、あと20年にわたって住むのかと考えると、建て替えて新築という選択もあり得るように思えた。しかし、まだこの段階では、当方は建て替え=新築を考えてはいなかった。

Hさんが来訪     5月7日(火)  晴れ
 Hさんが、事務所に遊びに来られた。話はもちろん、自宅の件である。

 擁壁の改修のためだけに、大きなお金を出費するのは、どんなものだろうか。それが気にかかっていた。Hさんもそう考えていたようで、新築したときの費用をたずねられた。

 しかし、新築となれば、奥さんの意見も大切にしなければ、家庭の平和は保てない。奥さんもまじえて話をしたいので、また来て欲しいと言われる。お邪魔する日を約束した。

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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