H邸の新築工事                
第 25 回   12月4日記  設計は続く−建築途中の追加・変更

 設計は続く
 
 建築工事がすすむと、建築主の気持ちも変わる。建築工事は期間が長い。そのため、当初は良かったつもりでも、途中で気が変わることはあり得る。また、図面という紙の上にで見たものと、出来上がってきたものでは、印象が大きく違うのも自然なことだ。そのため、こんなはずではなかった、と言うこともおきる。着工後の変更は、現場としては歓迎しないが、匠研究室では可能な限り対応している。

 今回の工事では、幸いこうした変更は少なかった。2階の部屋へのクーラーの追加、ガス器具の追加、洗面所の湯沸器の機種変更、それに畳を敷き込むことくらいが、大きな変更であった。クーラーやガス器具の追加は、新規に増やすだけなので、工事に格別の支障はない。
カウンター下が温水器

  通常の給湯計画では、給湯器は1ヶ所に設置し、そこからお湯を使う場所へと配管する。この方法だと、給湯器から離れた場所では、お湯がでるまでに時間がかかる。風呂のように大量にお湯を使う場合は、多少時間がかかっても不便ではないが、手洗いではすぐにお湯が出てくれないと困る。水からお湯になるまでに、手を洗い終わってしまう。

 そのためH邸では、洗面所の下に貯湯型の湯沸器を設置した。ところが、原設計ではこれが小型だったために、洗髪のように大量にお湯を使用すると、あっというまにお湯を使い切ってしまう。湯沸器の機種変更とは、原設計では洗面所での洗髪を考えていなかったので、容量の小さな機種を拾ってあった。それを洗髪対応の大型に変更した。

 畳を敷き込むこととは、当初板の間で計画していた居室1に、畳を敷きたいと言われたのである。計画の段階では、板の間で良いと考えてたHさんは、途中で畳の部屋が恋しくなったようである。そこで、8畳の広さのうち、6畳分だけ畳を置き敷きにした。当初から畳を敷き込む計画であれば、荒床といってベニヤ板の下張りにするのであるが、すでにフローリングを張ってしまったので、畳を置くように細工したのである。
洋間の予定が畳敷きになった

 誰でも心が変わる。建築主の心変わりは、仕方のないことである。しかし、設計者としては、いささか問題である。原設計では、板張りの書斎として計画していたので、天井高も高くしたし、窓の位置もやや高めに設定してある。つまり、板の間は立って生活するから、全体に高め高めに寸法を決めてあった。

 ところが、座った生活の畳敷きでは目線が下がるので、板敷きよりも低めに寸法決めする。そのほうが心地よい空間になる。今回は、すでに室内が完成してしまっているので、天井高を下げることはできず、畳を敷くだけの対応しかできない。そのために、やや落ち込んだような室内の雰囲気になってしまった。これは得も言われぬ空気の設計としては、困ったことなのである。やはり原設計の変更は、さまざまな余波を生む。

 工事中の設計変更は、できればしたくはないが、そうはいっても、可能であれば極力対応するようにしている。一生に一度の建築に、悔いが残っては設計者としても心残りである。しかし、ここで気を付けておくべきことがある。問題はお金のことである。建築主はどこからどこまでが、見積の範囲内か判らないことが多い。

 見積の範囲が判らないから、追加工事は別予算なのか否かが、しばしば問題になる。明らかな追加は判りやすいが、変更の場合はすでに施工してしまった部分の精算が発生する。そのうえ建築主としては、追加工事はサービスとして無料になるのでは、と心のどこかで思っている。施工者は追加だと思っていると、工事が終わってから揉めることになる。

 匠研究室では、建築主には冷たいかも知れないが、追加の金額が発生するときは、追加の見積書が承諾されるまでは施工を指示しない。建築工事が楽しく終わって、楽しく新居に入居してもらうためにも、お金の管理は冷静にやっていく。そう心がけていても、勘違いや行き違いが発生するものである。

 H邸の工事も、もう完成が見えてきた。あとすこし、気を引き締めて、最後の追い込みである。
「タクミ ホームズ」も参照下さい
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