H邸の新築工事                 
第 5 回   7月26日記  建築の設計がすすむ過程とは−その2

設計とは表現すること
 
     
 玄関から居間への導線、それに居間と厨房の関係がイメージできたら、図面を描いてみる。在来木造建築では、やはり1坪とか3尺といったマス目を基準にしたほうが、材料の無駄もでないし大工さんも慣れているので工事費も安い。それに畳の枚数で部屋の広さを表すのは、建築主にも判りやすい。住宅建築では、いまだに尺貫法がまかり通っている。
ボツにした最初の間取り

 4畳半くらいの玄関に、10畳くらいの居間、6畳程度の厨房である。取次から居間への直接的なつながりが、この計画を拘束している。居間が廊下の代わりをしているのは良いとしても、厨房が使いづらそうだ。この計画はボツである。そしてまた、時間がたっていく。

 翌日、また図面を見直す。玄関、トイレ、水回り、そして寝室の関係は、うまくいきそうである。しかし、居間が狭い。南からは採光がとれないので、玄関、トイレには、トップライトをつけて屋根からの採光をとろう。寝室にもトップライトを付けたほうが良いかも知れない。浴室が玄関への導線に近いが、ここには木を植えて、近づけないようにしよう。

 西日を嫌って、西側に大きな窓を設けないように、考えが固まっている。発想の転換。西側しか採光がとれないのなら、西日のコントロール方法を探せばいい。現在も居間は西に面している。しかも、この敷地は居間の部分にしか、太陽はあたらないようだ。西側といえども、南北の両方には家が建っており、寝室部分には西日は直達しない。

 西日がきついのは、夏だけだ。そこで、西側にはやや長めの庇をだして、庇の先に巻き上げ式の日除けを下げることにする。そうして、居間と厨房を入れ替える。これで何とかまとまりそうである。2階は居間と厨房のうえにのせればいい。

 全体の床面積を、30坪(100u)程度に押さえたかった。1階が20坪(66u)、2階が10坪(33u)といったところだろうか。2階には、奥さんの部屋兼子供が帰ってきた来たときの予備室、それに雨の日などに洗濯物を干すサンルームを用意すればいいだろうか。すると2階には水回りは不要かな。それともトイレくらいは必要だろうか。迷うところである。

 このへんで建築費のことを考えに入れる。小さければ小さいほど建築費は安くなるが、必要な面積は確保すべきである。大きな家は立派である。しかし、私自身は小さな家が好きなのである。小さな家には、家の人のぬくもりが、家中に充満している。きちんと整理整頓された家より、散らかった家のほうが心がなごむ。大きな家は、女中さんがいないと維持できない。小さな家が好きな私は、貧乏性なのだろう。

 現在の住宅は、設備と呼ばれる電気や空調、給排水衛生といった部分に、大きな予算が割かれている。床、壁、天井といった建築部分を除いて、トイレ1ヶ所が30〜40万円くらいだろうか。30坪の家とすれば、トイレが1ヶ所増えると、坪単価が1万円ほど上昇する。設備費は今後ますます大きくなっていくだろう

 何度か図面を書き換えながら、Hさんと打ち合わせが進む。おおむね間取り=平面計画が決まったところで、設計監理契約をむすぶ。設計監理の費用は、工事費の10%をいただく。工事費を基準にすると、施工費を下げる努力が、匠研究室の収入を下げることになる。奇妙な仕組みだが、それで良いと考えている。

 仕上げの希望や予算なども、話にでてくる。外壁の仕上げは板にできないとすると、サイディングだろうか。外張断熱の場合は、あとあとで下がる恐れがあるので、外壁材にあまり重いものを使いたくない。金属製のスパンドレルもすすめてみたが、好みではないようである。

 Hさんの家に何度かお邪魔しながら、間取りは徐々に煮詰まってきた。(週に1回、毎週火曜日を定例の打ち合わせにしていた) 新築に決まりながらも、北側の擁壁が頭から離れない。Hさんはすぐに設計料の契約金を振り込んでくれた。素早い振り込みに感謝である。
「タクミ ホームズ」も参照下さい
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