H邸の新築工事                
第 8 回   7月30日記  実施設計に入る−その2

実施設計は手仕事である
 
     
 基本設計の段階で、家の大きさやある程度のグレードは、想定されている。そのため、おおよその予算は押さえているが、それは坪あたり60万円とか70万円といった、おおまかな金額でしかない。実施設計を進めるなかで、工事費は徐々に精確な押さえになっていく。しかし、それでも施工者によって、1〜2割の違いがでてくる。そのため正確に言えば、施工費が決定するのは、施工者の決定と同時ということになる。

 ところで、床板だって1万円/坪から3万円/坪くらいまであるし、クロスだってピンキリがある。システムキッチンに至っては、予算の立てようがないくらいに値幅が大きい。また、クーラーを設置するとなれば、1台あたり10万円は必要である。また、今では本物の板を使うと高価になることが多い。こうした要素をすべて積み上げてから、床面積で割ったものが坪単価である。

      総工事費÷床面積=坪単価

 この計算式は、おおよその目安を付けるには参考になる。しかし、総工事費に何を含めるかによって、坪単価は大きく異なってくるのは、当たり前の話である。だから、坪単価だけを云々してもあまり意味はない。匠研究室の建築計画では、照明器具からシステムキッチン、床暖房、太陽熱温水器、2重ガラスなどは、施工費に含める。工事費に関しては、別項を立てるので、そちらを参照してください。

 実施設計にあたって、ある原則を立てた。それはなるべく自然素材を使うことだ。今や自然素材は高価になっており、ローコスト住宅ではなかなか使えないが、この家は標準的な予算で良いと聞いている。高気密・高断熱や2重屋根、床暖房など、お金のかかる仕様が目白押しだが、それでも自然素材を使いたい。

 外壁は板張りというHさんの希望は、建築基準法が許さなかった。仕方なしに選んだのは、窯業系のサイディングである。Hさんにカタログを提示する。カタログから5種類くらいに絞り、現物のカットサンプルをメーカーに注文する。5種類のなかから1点を選ぶ。その大きなサンプルを、送ってもらう。薄いベージュの品番に決定。屋根は、ステンレスの瓦棒葺きだから、選択の余地はない。これで外観の雰囲気はほぼ決まった。

 今回は床の高さを、地面から51センチの高さにした。玄関外で21センチあげて、玄関の床の水勾配(みずこうばい)を5センチとる。すると、玄関の土間から取次に上がるのは、24センチの高さになる。この高さの決定は、全体の高さ関係のなかで微妙である。そして、取次の天井の高さは、2.25メートルと低く抑える。私が手を伸ばした高さは、2.10メートルだからこの天井高は相当に低い。

 室内の仕上げ材に入っていく。玄関の床には本物の石を張りたい。石の種類は切石ということで、とりあえず伊豆石を候補にあげる。もちろん玄関の外から内まで、同じ石で連続させる。玄関扉は、アルミサッシではなく木質系の防火戸を使いたい。高気密・高断熱仕様で、木質系の防火戸は少ないので、この扉の選定にはちょっと時間がかかる。壁は京壁でいく。天井は布のクロスを予定する。
  居間の照明

 居間は壁に板を使いたい、というHさんの希望である。しかし、天井まで板を張ってしまうと、板の主張が強すぎて、室内の雰囲気がやや粗野になる。また、部屋が暗くなることもある。そこで、板は腰までとし、床から90センチで止める。その上は京壁にする。クラシカルな仕上げ方だが、腰の線を目立たなくすることによって、軽快な感じが演出できるだろう。床は床暖房対応のフローリングで決まり。天井は可能な限り高くする。仕上げは布のクロスにして、壁との取り合い部に、照明を仕込む。

 匠研究室では、部屋の中央に光源を吊すことは、きわめて少ない。とりわけ居間の照明は、部屋の真ん中におくことはない、といっても過言ではない。中央に光源があるのは不自然であるし、照明は人間を引き立てる裏方になるべきだ。そう考えるので、施工はやっかいではあるが、右の図のような照明方法をとることが最近では多い。(詳しくは、考える家−光と闇を参照してください。)

 高気密・高断熱の家では、高断熱のサッシをつかう。そして、ガラスは2重ガラスが標準である。今回も、もちろん2重ガラスをつかう。ここあたりが工事費にはね返ってくるが、これは仕方ない。雨戸に網戸は、ぜひ必要だろう。
 閑話休題:かつて、N邸での話。浴槽にTOTOのポリバスを使っていたが、その底に大きなひびが入った。風呂のお湯がもってしまい、改修しなければならなくなった。浴槽にひびが入るなど、聞いたことがなかったので、メーカーであるTOTOに問い合わせた。すると、当該商品は欠陥品であるとのこと。
 しかし、そのときのTOTOの対応は素晴らしかった。浴槽はもちろんタイルなどの周辺工事費の一切を支払うと、丁重に言ってきた。間違いはあるもの。間違ったときの対応が問題なのだ。TOTOの対応は誠意あるもので、それ以降TOTOにたいして安心感が増した。

 厨房はキッチン・メーカーのショールームに、Hさん夫妻を案内する。浴室にユニットバスを予定しているので、TOTOでまとめよう。高気密・高断熱であること、広さや天井高、こちらの好みなどを伝えて、ショールームの女性から説明を受ける。希望をいってまとめて貰う。後日図面が郵送されてくるとのことである。

 寝室もトップライト付け、壁・天井は布のクロスにする。カーテンボックスは天井の端から端までつけ、その端部には照明を仕込む。天井には全体照明をもうけずに、ベッドの枕元に小さな照明を仕込む。クローセットの内部は、現場が進んでから、奥さんに見てもらおう。今の段階では、パイプと棚をみておく。それにクローセットの扉を開けると、内部に灯りがつくようにする。天井高は2.50メートルにする。

 洗面脱衣所は、正面に高さ90センチ幅35センチの鏡をおき、その両側に照明を仕込む。そのまた両側に突き出しのサッシをつける。洗髪のできる流しと物入れを、カウンターに組み込む。鏡のうえにも吊り戸棚式の物入れを設置。家全体に機械換気をとっているが、水回りは別経路の換気にする。トイレ、洗面脱衣室、浴室とまとめた換気扇を設置する。

 書斎には書棚を建築化しない。作りつけの書棚は格好は良いが、高価になる。現在では既製品で、棚高の調節できる便利なものが市販されている。それを使ってもらおう。もちろん、書斎の天井高は可能な限り高くする。納戸には30センチ間隔くらいで、作りつけの棚をみておく。

 玄関の階段にとりつく化粧の柱、段板、蹴込み、手摺りなどを検討しながら、階段の詳細も決める。2階との絡みで、階段の天井が微妙な位置になる。これは現場で決めよう。図面には<現場打合せ>と記入する。取次の床下には、靴が入るように懐をもうける。2階の仕様も順次決めていく。 

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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