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第1回目の訪問 4月30日(火) 晴れ ゴールデンウィークに入って何日か過ぎた頃、匠研究室にいささか焦った電話がかかってきた。基礎の下に土がなくなっている、家が傾いている、という内容である。そんなことがあるのだろうか、と不思議に思いながら、よ〜く話を聞いた。電話の主は、旧知のHさんだった。 Hさんはかつて匠研究室が、木工具の使い方教室をやっていた頃の生徒さんである。Hさんはとても熱心だったので、ひときわ上達し、鉋を見事に使うようになった。刃物の研ぎも達者だった記憶がよみがえってきた。この<木工具の使い方教室>から、大工道具の話が生まれたので、すでに10年以上も昔の話だけれど、思い出が深い。当時は下記のようなことをやっていた。
3年ほど前、Hさんの敷地の西側の擁壁がぼろぼろになって、擁壁の下の家からクレームが付いたことがあった。そのときにもHさんの家にお邪魔し、鉄筋コンクリートの擁壁に改修したことがある。それとの関連かと思っていると、どうもそうではなさそうである。 現場に行ってみる。コンクリートがうすく均してある脇から見ると、たしかに下の土が流れているようだ。コンクリートをハンマーで毀してみる。コンクリートを持ち上げて、土の下を見ると、基礎には亀裂がはいっていた。亀裂は1センチほど口を開けている。 家全体を入念に調べてみると、さまざまなことが判ってきた。 1.北傾斜の丘陵を雛壇状に区画したこの敷地は、敷地の南側が切り土(きりど)で、北側が盛り土(もりど)である。切り盛りした敷地は、不同沈下(上の建物が不均等に沈下すること)を起こしやすい。 2.古い図面によれば、盛り土に立つ部分には、松杭が埋められているらしい。しかし、常水面が下がって、すでに杭として役割を果たしてないと思われる。 3.長年の雨で徐々に土が締まり、盛り土だった部分には水道ができており、水道に従って部分的に土がなくなってしまった。 4.新築当初は平屋だったが、2度にわたり増築して、盛り土の部分に2階建てがのっている。耐力のない盛り土には、2階建てはきついと思われる。 5.昭和40年頃の基礎は、断面も小さく鉄筋が入っていないかも知れない。そのため基礎に亀裂がはいり、盛り土部分にのる家が傾き、建物のほうも平屋部分と2階建てのあいだに亀裂が入っていた。
敷地の北側は左の図のようになっていた。2.30メートルの段差になって、下の1.30メートルは大谷石(おおやいし)がつまれて、勾配のついた擁壁をなしている。そのうえに1メートルほど、ブロックが垂直に積まれて、土の圧力を受けていた。現在では大谷石の擁壁は施工が認められない。しかも、ブロックは塀であって、擁壁として土の圧力を受けることはできない。 この擁壁を造りなおすのは、きわめて難しい。というのは、東西南北のすべてに家が密集しているうえ、その擁壁とHさんの家まで2メートルほどしかない。建設機械を入れる道が、まったくない。西側の擁壁は何とか工事ができたが、北側は擁壁の根本が敷地境界にぎりぎりときているので、いかんとしても手のだしようがない。 検討することとして、その日は現場から帰ってきた。 |
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「タクミ ホームズ」も参照下さい |