H邸の新築工事                
第 15 回   8月16日記  近隣対策とは−ご近所仲良くは昔の話か

北側擁壁と近隣対策と
 

 建築工事とは、迷惑産業だといってきた。音がでるし、埃もでる。ときには振動もひどい。それに職人というエイリアンが出没する。お互いさまでとおる時代ではない。だから近所の方たちが、神経質になるのはよくわかる。この現場でも、2件の注文がついた。

 第1は境界をめぐってである。Hさんの主張する境界点は、おかしいというのだ。この点に関しては、まだ解決していない。現在、交渉中なので、ここに書くのをいま少し控える。近々解決したら、その報告を掲載します。


 第2は、北側の擁壁が壊れそうなので何とかしろという、Gさんからの注文である。たしかに北側の擁壁は、右の図のようになっており、大谷石が1.3メートル積まれたさらにうえに、ブロックが1メートル積まれている。下のGさんの敷地に立つと、そのブロックも外側に傾いて見える。心配になるのも無理はない。

 そこで擁壁の改修工事を検討することにした。かつてHさんの家が建っていたときには、このブロックにいたる道がなかった。しかし、現在は古い家も取り壊してあり、上には作業場所が確保できる。なんとか工事ができそうだ。まず、ここに鉄筋コンクリート製の擁壁築造が可能かか否か、その検討である。

 Gさんの敷地に入って、現在の擁壁を調べることから始まった。まず敷地の境界がはっきりしないので、その確定である。Gさんから頂いた図面を参照しながら、Hさんの敷地とGさんの敷地を測量する。すると、敷地の境界が左の図のようなので、大谷石とのあいだに何とかコンクリート壁をたてることができそうだ。

 擁壁は垂直の部分だけでは保たない。コンクリート擁壁の場合は、高さの3分の2程度の折り返しが必要である。その折り返しを作るとなると、大谷石擁壁も毀さなければならないし、何よりも現在落ち着いている土を、ほじくり返さなければならない。大工事になるし、賢いやり方だとは思えない。

 擁壁の基礎を、Gさんの敷地に出すわけにはいかない。そこで、建築の基礎と一体化して、構造をつくり安全を保たせることを計画した。それが右の図である。これならブロックが崩れてもコンクリート壁が支えるし、コンクリート壁は建物の基礎から引っ張られているので、安全である。この線でいこうと、役所へも相談に行く。

 すると役所は、建物の基礎と一体化すると、このコンクリート壁は壁面後退線に抵触する(この地域は敷地境界から、外壁を1メートルさげる規定がある)から、建物の基礎とは縁をきれば、OKだという。何だか割り切れないが、コンクリート壁の建築は大丈夫のようだ。そこでこの計画をもって、Gさんを訪ねた。

 しかし、である。なんと、Gさんは大谷石の根元が、敷地境界だというのである。Gさんの敷地の反対側からも距離を測り、数字を示しても承諾しない。Gさんから頂いた図面の数字と、匠研究室の測量結果とは、2センチしか違わない。擁壁というのは地中に根入れというのがあって、地面のなかに基礎をおいている。その基礎のうえに大谷石の擁壁がのっているのだから、敷地境界は擁壁の根元ではないのですよ、といくら説明しても、ガンとして聞き入れない。

 Gさんは理性的な人だと思っていたが、まったく話を聞かないのである。あまりの頑固さに、言葉を失ってしまった。何度も足を運んだが、とりつく島がない。しばらく冷却期間をおこうと、この話は現在では中断したままになっている。Hさんから別途に追加予算を組んでもらったが、どんな形にせよ、境界をはっきりさせなければ工事はできない。

 匠研究室は1級建築士事務所であるが、土地家屋調査士事務所でもあり、建築のみならず測量や境界確定も業としてきた。境界争いは一度こじれると、この先大変なことになる。それが判っているだけに、ちょっと嫌な気分である。

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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