H邸の新築工事                
第 22 回   10月20日記  定例の打ち合わせ−毎週火曜日の午前10時

 毎週火曜日の午前10時

 建築工事の進行は、ずいぶんと早くなったが、それでもゆっくりしている。工場生産品が増え、現場の仕事は少なくなった。機械が導入されて、仕事は楽になった。しかし、結局のところ、人間が人力でする作業が、最後の部分を支えており、それはゆっくりとしか進めようがない。人間の仕事には、限界がある。

 図面の段階でおおよそ解決したつもりでも、現場での仕事の進行にあわせて、不明な箇所も発生していく。また、色決めや形の最終決定は、現場での作業になるものが多い。そうした疑問を解消するために、週に一回の定例の打ち合わせがもたれるのが普通である。

 H邸の現場では、Hさんとの打ち合わせが火曜日午前10時だったので、そのまま同じ時間を定例に当てている。このうちあわせに出席するのは、現場監督、電気設備の監督、給排水工事の監督である。それに以外にも必要に応じて、職方が出席することもあるが、通常は3人である。それに監理者である匠研究室。ときどきHさんもお見えになる。
電気屋さんから出された質疑書

 言った言わないの行き違いを防ぐために、定例での打ち合わせは、現場監督が記録する。そして、翌週には清書したものを提出して、打ち合わせの内容を確認する。おそらくどこの現場でも同じことをやっているだろう。

 今回は、Hさんの以前の家で使っていたものを、新しい家でも使う設備がいくつかある。冷暖房に使う空調機、それに浴室乾燥機である。これらは再使用を考えて取り外し、現在Hさんの仮住まいに保管されている。設備屋さんに、この機種を確認してもらう。これらはガスを熱源とするが、ガス器具の再取り付けは、撤去した会社がやる習慣だとか。そこで撤去した業者を調べてもらう。

 ケーブル・テレビを入れるかも、検討の対象になった。2階の屋根は、太陽光発電に使うので、アンテナを建てるのが難しい。そこで、ケーブル・テレビを入れることにしていたが、Hさんとの打ち合わせが不十分だった。Hさんはケーブル・テレビを使わずに、アンテナを立てたいらしい。小田急ケーブル・テレビの営業の人に来てもらう。ケーブル・テレビの件は、来週まで持ち越し。

 太陽熱温水器を使うつもりだが、これも太陽光発電のパネルと交錯する。2階の屋根には、どちらかしか乗せることはできない。そのため原設計では、将来の太陽光発電のために、太陽熱温水器は1階の屋根にのせるとにしていた。しかし、1階の屋根ではシャワーの水圧が不足する。太陽熱温水器からシャワーが仕えないことになった。どちらを優先するか、Hさんの指示を仰ぐことにし、来週に持ち越しである。

 技術的な話は、匠研究室の段階でほとんど決める。居間の照明は、ショーケース用という細い蛍光灯を使うが、これは安定器が器具の中に一体化されておらず、別置きである。そこで安定器を天井裏のどこに置くか、質疑が上がってきた。安定器からは小さな音が出ているので、音対策と後々の点検を考えて、場所を決める。

 トイレの天井には、トップライトがおりてくるので、照明と換気口が交錯して、付ける場所がない。これは換気口を天井に付け、照明を天井ダウンライトから壁付けに変更する。監理者が交通整理しなければ、この変更は現場の人にはできない。技術的な判断は、なるべく即決するようにしているが、軽率に判断すると、後で訂正しなければならなくなって、かえって現場は迷惑する。監理者の発言は、現場を大きく左右するだけに、<大胆かつ慎重に>である。


 右の写真は、浴室の天井内である。当初、換気扇の本体は、脱衣室の天井上に置くつもりであった。しかし、ユニットバスの天井には、点検口がついているので、この点検口を兼用にして、脱衣室から浴室に移すことにした。これで天井点検口の予算が他に回せる。

 この換気扇からは、3本のダクトが出る。風呂、脱衣室、それにトイレである。また結露水をとるために、ドレインパイプも設置しなければならない。後々のことを考えておかないと、いろいろと大変な部分ではある。

 上部に見えるのは断熱材で、手前3分の1くらいに白く見えるのは、隙間を埋めた発砲ウレタンである。気密を高めるために、この家ではありとあらゆる隙間に、発砲ウレタンを充填している。高気密高断熱の家は、かつての家とはずいぶんと異なった考え方で造られている。

 かつては、夏の通風を一番に優先して、風通しの良い家を造ったものだ。その代わりに冬の寒いのは少し我慢してもらう、というのが常識だった。しかし、アルミ・サッシの登場により、開口部の気密性があがったので、家に対する考え方が変わってきた。寒さを防ぐことに主眼が映ってきたのだ。

 熱的には、開口部がもっとも弱いので、寒さを防ぐためには窓を小さくしたがる。完璧な高気密高断熱の家は、窓を小さくして、完全機械式の空調設備が必要だが、H邸ではそこまではやっていない。大きな窓と自然換気の道を残している。熱的には弱くとも、外とのつながりを残しておきたかったのである。
「タクミ ホームズ」も参照下さい
「建築への招待」へ戻る        次回に進む