H邸の新築工事               
第 3 回   7月20日記  今の家を建て替える決断

第3回目の訪問      5月9日(木) 晴れ
 ゴールデンウィークがあけて、またHさんのお宅にお邪魔した。こんどは奥さんも同席されて、自分の希望をいわれた。

 奥さんは今まで仕事をしてきたが、引退して家にいることが多くなった。しかし、机に向かう必要があるので、自分の部屋が欲しいという。また、子供が帰ってきたときには、泊まれる部屋がないと、子供を拒否しているようで気が進まない。現在より小さな家では、生活が難しいようだ。2階部分を毀してしまうと、増築が必要になる。

 今後の生活の話、子供の話、Hさんの定年後の話、工事中の住まいのことなど、雑談をまじえて、さまざまな角度から検討が始まった。現在の家は、すでに居間の床がブカブカし始めている。それに室内が暗い。増築した2階への階段が急である。古い家を直しても、それほど現在と変わりがないようなら、新築しても良いと奥さんは言われる。

 老後のことなども考えると、いまが最後のチャンスかもしれない。Hさんも新築に同意される。新築となれば、金額もそれなりにかかる。Hさんの顔も、心なしか緊張したようだった。そこで、撤去・復元の案だけではなく、新築という方向を検討することになった。ご希望の条件は下記の通りである。

1.居間と厨房は別室とする 2.厨房を広くし、ダイニング・キッチンとする
3.寝室はベッドとし、クローセットが必要 4.洋式トイレを寝室に隣接させる
5.Hさんの書斎兼仕事部屋は独立 6.奥さんの部屋兼来客時の予備室

 新築を検討ということであれば、計画に少し時間がかかる。家にたいするイメージなどを聞く。外壁には、板を張りたいとの希望である。しかし、板張りは建築の法律が許さないだろう。建築計画をつくって、2週間後にまたお邪魔することにした。この段階では、まだ設計・監理契約の話はでていない。

敷地の物理的な条件
 約2メートル幅の路地状引き込みを、17メートルも入ってくるこの敷地は、計画がとても難しい。敷地は南北に長い。南側が約12メートル、東側が約17メートルの長方形だが、北西の隅が斜めにカットされている。そして、高低差がある。南が2メートルほど高く、北が2.8メートル低い。

 南の境界には擁壁が迫っている。そのうえに2階建てのアパートが建っている。だから南からの太陽光は、あまり期待できない。東側は同じ高さがだ、隣家が接近しており、採光には困難が伴う。西側は2メートル低い。開けているのは、西側だけである。しかし、ふつう西日は遮断したいものだ。

 難しい敷地を目の前にして、建築計画が始まった。外観はいままでの形を踏襲したいようだから、今回は外観には拘らない。むしろ室内のえもいわれぬ雰囲気や、快適な空気を設計することにする。難しいが、建築計画は楽しい。寝ても覚めても、建築計画を考える。頭のなかでは、敷地のうえに家のかたちがイメージされる。そして、消し去る。また、イメージし、消し去る。

 都市計画課や建築指導課など、役所での調査も同時に開始する。

敷地の法律的な条件
第1種低層住居専用地域 建坪率=50%   容積率=100%  
防火の指定は、なし 敷地境界から、1.00m 以上離れる
北側斜線制限  5.00m+0.6の勾配 分流式の公共下水が完備

 そうして1週間が過ぎていった。

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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