H邸の新築工事                
第 14 回   8月10日記  基礎工事−その1

基礎工事
−家の位置を決める=仮設工事
     
 解体工事が終わって、敷地には何もなくなった。平らな地面が見えるだけである。ここに家を建てるのだが、敷地のどのあたりに家を建てるのか、それを決めるのが第一番の仕事である。そこで図面に従って、家の形を地面のうえにかたどってみる。この作業を、地縄(じなわ)を張る、という。そのためには、基準とする境界線から、建物の角になるところまで、距離をはかる。

 このH邸では、東側の敷地境界線(右の図の上の線)から1.2メートル、かつ南側の境界線から1.2メートル離れた交点に木杭Aを打つ。つぎにその木杭から北側(図では右に)に11.8メートル離れたところに2本目の杭Bを打つ。この2本の杭を結んだ線が、H邸の東側の壁になる。

 次に最初に打った杭から西に8.2メートル離れ、かつ南側の境界線から、1.2メートル離れたところに、3本目の木杭Cを打つ。4本目の杭Dは東側境界線に平行に、今打った杭から北に3.6メートル離れたところに打つ。そして、図面に従って順々にE、F、G、Hと、北側の角にも杭を打つ。玄関前がへこんでいるのでA点ではなく、実際には I、J、Kが壁になる。これで、建物の位置が決まったわけだが、これはまだ仮のものである。

 昔は地面のうえに、建物の形を縄でかたどってみたので、この作業を地縄を張るというが、いまでは縄は使っていない。杭から杭へは、ビニールの紐やビニールの糸を張り渡して、建物の形を表すことが多い。この作業によって、ここでもう少し西に寄せるとか、北に寄せるとかして、家がうまく敷地に納まるかを検討する。

 家は平面だけではない。高さもある。地面は平らなようでいて、完全な平面ではない。H邸の敷地も、北側が約20センチほど低い。そこで、どの部分を高さの基準にするか、そして、基準面からどのくらいの高さを設計上の地盤面にするかを決める。屋根が北側斜線制限など高さの規制に抵触しないように、高さも重要な検討項目である。地縄張りには、もちろん設計者が立ち会う。8月3日、地縄にOKをだす。

 次に、遣り方(やりかた)をかける。遣り方とは、基礎を作る基準です。基準となる水平面や直線を、空中に印すわけにはいかない。そのため、印すための仮の板を設置する。まず地縄によって、おおよその位置決めした建物の外周より、50〜60センチ外側に、36×45の木杭を1.8メートル間隔で地面にうつ。

 その杭に<水盛り管>もしくはレベルで、1本1本に水平な点を印していく。水平を出す作業を<水を盛る>とよぶ。その点を結んで、幅9センチ、厚さ1.2センチほどのまっすぐな長い板(水貫=みずぬきと呼び、杉板を使うことが多い)を水平に釘で固定する。杭の水平点を、つぎつぎに水貫で結んで、建てる建物の外側をかこう。すると、この水貫の上端(うわば)は水平になる。そして、この水貫に直角や直線をにらみながら、柱の建つ位置を印す。これで建物の位置が決まった。

 地縄を張って、遣り方をだし、水を盛る、ここまでの作業は、一連のものだ。これらの作業は、基礎を作るためには不可欠だが、正確には基礎工事ではない。工事のための工事だから、仮設工事と呼び、竣工後には何も残らない。地縄張りから水盛りまで、おおよそ1.5人工(人工とは、1人前の職人の1日の仕事量のこと)くらいだろう。H邸の工事では、1式35、000−と見積もられている。

 遣り方に記された墨の位置から、壁や柱の位置を考えながら、基礎の形をおって土を掘り始める。その手順はまず、遣り方の上端に糸をはりわたし、その糸から何センチ下がりを、基礎の底にするかを決める。土を掘る深さを決めることによって、家の高さが完全に決まる。糸からの距離を測りながら、基礎のために土を掘っていく。基礎の底を床付け面と言うが、ここで検査をする。
床付け後、防湿シートのうえに均しコンクリートを打ったところ。
コンクリートの外に廻っているのが、遣り方の水貫


 8月5日、床付け検査に立ち会う。水が湧いているとかがなければ、木造住宅ではまず問題はないだろう。しかも、この住宅は、べた基礎といって、家全体にわたって基礎を敷くので、地面の耐力は充分にでる。H邸も床付けが完了し、これから上に工事が進んでいく。

 床付け面に防湿シートを敷き、その上に均しコンクリートをうすく打設する。このコンクリートに墨を打って、基礎の立ち上がり部分を記していく。そして、その上に鉄筋を組む。今回の基礎は、べた基礎に鉄筋を2重に入れてある。やや過剰設計かも知れないが、南が切り土で北は盛り土と地面の耐力が違うので、このくらいにしたほうが良い。

 鉄筋を組み組み上げるまで、お盆の休み前に終わらせたい。現場は急ピッチで進んでいく。8月13日に鉄筋が組み上がり、現場はお盆休みにはいる。基礎のベース部分のコンクリートは、お盆明けの月曜日8月19日に打設する予定である。
「タクミ ホームズ」も参照下さい
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