H邸の新築工事                 
第 7 回   7月29日記  実施設計に入る−その1

実施設計で最初の課題
 
     
 基本設計に入る前には、もちろん法律の事前調査はしている。北側斜線制限とか、防火の指定とか、大きな条件を逸脱すると、建築が不可能となってしまう。だから、実施設計の段階では、細かいチェックを入れて再確認するに留まる。採光をとるために窓の大きさは充分かとか、排煙がとれているかとか、基礎の形態の検討などなどである。

 今回の住宅では、1.) 高気密・高断熱  2.) 外断熱(=外張り断熱)  3.) 二重屋根(唐傘の家)  4.)床下と小屋裏の空気の循環  5.) 太陽光発電  といったところを実施設計で組み込んでいきたい。

 高気密とは、簡単に言えばすきま風をなくすことである。いままでわが国の住宅は、夏の風通しを第一番にして、住まいが建築されてきた。雨さえしのげれば、風が吹き込むことは、あまり関心が払われなかった。しかし、気密性を確保することは、室内の温度調節が容易になり、居住環境が快適になる。そこで、断熱をはかるだけではなく、気密も完璧を目指すようになった。

 今回は、高気密・高断熱を外張り断熱工法で、実現しようと言うのである。断熱工法には、内断熱(充填工法)と外断熱(外張り断熱工法)があるが、完璧を期すには外断熱だろう。しかし、外断熱は施工実績が少なく、設計者も施工者もまだ慣れてない。そこで高気密・高断熱と外張り断熱の原理を徹底して調べることから始まった。

 外壁断熱に関しては、外壁断熱工法促進協議会(港区虎ノ門1−1−12 TEL:03-3591-8511)があるので、相談にのってもらう。協議会に何度か電話して、資料を送ってもらったり、疑問点を教えて貰ったりした。この協議会は、ポリスチレンフォームの製造メーカー5社がつくっている。ポリスチレンフォームとは固形の断熱材で、スタイロフォームの商品名が有名である。

 一般的にいって1階と2階が同型の、いわゆる総2階という形が経済的だが、家の形は総2階とは限らない。今回の計画も、総2階ではない。今回の計画を熱的に見ると、南側の1階建て部分、中央の2階建て部分、北側の1階建て部分に分かれる。全体には外張り断熱を使うのだが、3つの部分に異なった施工をすることにした。

 南−部分は屋根裏部分を断熱の外、つまり桁のレベルで断熱する。点線と実線のあいだは、熱的には外扱いになる。すると屋根と天井のあいだは、断熱が効いていないので、夏は高温になるだろう。この高温になる部分を、熱の集熱箱と見なして、ここから中央部へダクト引きにて、冬のあいだには熱を床下に運ぶ。床下には蓄熱体を設けて、徐々に熱を発散させて、室内の温度低下を防ごうというものだ。ダクトには中間ダクトファンをかませて、強制的に空気を動かす。ただし、気密は屋根面までとる。
  熱的に、3つの部分に分けた。

 中央−部分は、屋根の上にもう一つ屋根をのせる。これはかつての土蔵作りの屋根形で、匠研究室では<日傘の家>と称して、すでに何度も実施している。2階建ての2階は暑いものだが、屋根からの暑さが、直接に室内にはい入り込まないので、少しでも暑さは和らぐ。この部分は、小屋裏も含めて全体を断熱する。

 北−部分は、基本どおりに屋根面で断熱をはかり、小屋裏は室内と一体として扱う。今回は、家全体を魔法瓶のように考えているので、床下はすべて室内扱いである。そのため、床下換気口は設けないつもりだったが、夏の通気を考えて、開閉式の換気口を設置した。夏は開けて、冬は閉めてもらう。Hさんには仕事が増えてしまったが、簡単な作業なので了承してもらう。

 床下と小屋裏の空気の循環は、今回初めての実験なので、どのくらいの成果が期待できるかわからない。しかし、これと同じ考えのシステムは、OMソーラーという名前ですでに沢山の施工実績がある。今回は家全体に南の空気を配るのではなく、居間だけに吹き出し口を作った。

 高気密・高断熱にした場合は、すきま風がまったく入らなくなってしまうので、人工的に換気をしてやらないと室内の空気が汚れてしまう。煙草の煙も、室内に留まったままになる。長期間室内を閉め切っておくと、壁にカビが生えることさえある。そこで、機械換気装置を組み込むのだが、換気機械は室内扱いになっている北側の天井裏に設置する。

 太陽光発電の見積もりをとったら、約200万円かかるとの回答がでた。2002年度中は、政府から1KWあたり約10万円の補助がでるので、Hさんの実質的な負担は約170万円である。7月29日現在、すでに解体工事が始まっているが、まだ検討中である。上棟時までにくらいに決めればいいだろう。

 この家は外見のデザインは平凡だが、さまざまな工夫が凝らしてある。こうした工夫を、無理なく納めていくには、何度も計画を練り直す必要がある。細かい部分で、どうしても破綻が生じやすい。全体を考える設計は発想の勝負で、ボーとしている時間が多かったが、実施設計はほとんどが手の作業となる。

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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